『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十八)

 今回は、一七三一番歌を訓む。本歌は「宇合卿歌三首」の三首目。
 写本の異同は、三句二字目<麻>。『西本願寺本』以降の諸本に「靡」とあるが、『藍紙本』『伝壬生隆祐筆本』『類聚古集』に「麻」とあるのを採る。原文は次の通り。

  山科乃 石田社尓 布<麻>越者 
  蓋吾妹尓 直相鴨

 一句「山科乃」は「山科(やましな)の」と訓む。この句は、前歌(一七三〇番歌)一句「山品之」と表記は異なるが同句。「山科(やましな)」は地名で、京都と大津を結ぶ交通の要地。「乃」はノ(乙類)音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、連体助詞「の」。
 二句「石田社尓」は「石