憧話作家・小原麻由美さんの教室で作った話…… 幻の林檎 あの聖夜は若く、兎も若かった。が、夜の空気は甘いのに、兎の気分は苦かった。 林檎の爆弾は、爆発しなかった。兎が学校に仕掛けたまっ赤な林檎の形をした爆弾は、爆発しなかった。十四歳の兎は、その頃は何でもできると信じて疑わなかった。 “気にいらない場所は林檎の爆弾で吹き飛ばせばいい” まわりから天才、秀才と呼ばれていた兎は、魔法の杖を持…
カサカサと枯葉が足下で踊る いつの間にか灯り始めた街の灯 日の暮れの早さに物憂げに浸る間もなく 季節はその足を早めていく 君といた頃は どんな季節も喜びでしかなかったよ ひとつづつ一緒に過ごす時間が増えていく度に 季節は繰り返すものじゃなくて 積み重ねる度に二人の歴史になっていくだなんて 僕は勝手にそう信じていたんだ 夕焼けよりも遅くなった夕べの鐘が いつもよりも切なく聞えた秋の日 そこ…
本郷にある大学の、法文1号館の3階にある、大教室で、緋紗子は、ぼんやりとしていた。 社会心理学の総論の講義は、終わり、教室に残っている学生は、まばらだった。 先週でてみた、統計学の授業は、今のままでは、難しすぎて、聴いても無駄のようだった。 問題は、いくつかあるが。手を付けたら、相手の反応もあるし、差し当たって、急ぐような用事はなかった。まだ、じかんはあるから、どこか買い物へ行くか、美術館…