「うーーーーん!」 私は土手の上に両手を伸ばして寝転がった。 頬を撫でる風が気持ち良かった。 久し振りにお父さんの声を聴けて さっきまで落ち込んでいた気持ちがすっかり晴れた気がした。 「わぁー! キレイな星ー!」 見上げると夜空には数えきれないほど無数の星達が煌めいていた。 七夕のせいか今夜は天の川もいっそうキレイに見える。 「良いなぁー、織姫と彦星は年に一度のデートかぁー。 それ…
お母さんが亡くなる何日か前のこと。 私は学校が終わるといつものように病院にお見舞いに行って そして、いつものようにその日学校であったことをお母さんに報告していた。 「そっか。夏休みが終わったら進路のことも決めなきゃね」 「うん。まぁねー」 「ちーちゃんはどうしたいの?」 「んー。迷ってる。 お父さんはとりあえず大学に行けって言うけど・・・ ねぇ、お母さん。私ね、デザイナーになりたいの…
「ちーちゃん、ちょっと来てごらん」 居間で宿題をしていたら隣の和室からお母さんの呼ぶ声がした。 「なぁーに?」 すぐに走って行き和室に入るとお母さんがニコニコしながら座っていた。 「おいで」 そう促されて私はお母さんの前にちょこんと座った。 「はい、これ。 どう?」 目の前に置かれたのは新品の浴衣だった。 白地に赤と青の朝顔が描かれていた。 側には黄色い帯と黄色い鼻緒の下駄も一緒に…
そんなこんながあって 目一杯落ち込みながら帰り道の自転車を漕いでいたら突然メールの着信音が鳴った。 自転車を停めて、ポケットからスマホを取り出した。 見ると出張に行っているはずのタカシからだった。 <やっほー! 今日も快食快便してるかい? 今、札幌だよーん。 ススキノのネオンが俺を待ってるぜい(むふ) おぉーっと、待っているのはススキノのお姉ちゃんだけじゃないぜ。 カニ、イクラ、ラーメ…
1945年 (昭和20) 東京。 花子が書斎で"赤毛のアン”を翻訳している場面。 「名前は何というんだ」子供はちょっと躊躇ってから 「私をコーデリアと呼んでくださらない」と熱心に頼んだ。 「私の名前ってわけじゃないんですけど素晴しく優美な名 なんですもの」 「コーデリアという名前じゃないなら何という名前なの」 「アン・シャーリー。 アンなんてとても現実的な名前なんですもの」 翻訳しな…