漱石はやはり傑出した人物であり、文部省の第1回給費留学生に選ばれイギリスに2年間留学。帰国後は東大講師に就任。当初は学生の発音を厳しく指導し総スカンを喰らうも、妻から「聞いている人たちの心を鷲づかみにする方法を勉強してみては?」と示唆を受けると、一躍その講義は大人気を博する。それでも、漱石は教師が嫌でたまらず思い悩む。そして、遂に小説を書く。これがまた情景が目に浮かぶような珠玉の文章だ。しかし…
夏目金之助は旧名主の六男として生まれるが、「恥かきっ子」として養子に出される。金之助は学問に秀でるも、養子先では進学させる気はなく、実兄の後押しもあり実父から学費を借りて進学する。養子先にも実家にも安住の地はなく、まだ幼かった金之助はアイデンティティの不安を覚え、自分の足で立たねばならないことを自覚する。とは言え、金之助は孤立無援ではなく、養母・実母からは暖かく見守られ、実兄にも気に入られ、人…
伊集院静の「いねむり先生」を読了した。著者は直木賞を受賞した小説家であるが、レコード大賞を受賞した作詞家でもあり、その他、女優の夏目雅子(白血病で早世)、篠ひろ子が夫人であることでも知られている。本書は、妻(夏目雅子)が病死した後、酒とギャンブルで荒んだ生活を送っていた主人公サブロー(著者)が、「いねむり先生」こと作家の色川武大(阿佐田哲也)と出会い、その先生と交流することにより、精神的に次第に…
伊集院静の「星月夜」を読了した。著者は直木賞作家で、夫人は女優の篠ひろ子である。本書は、著者が初めて手掛けた推理小説とのことである。 物語は、浅草寺境内で一カ月間開かれる行方不明者相談所から始まる。その相談所を、孫娘の可菜子の消息を求めて、岩手から老農夫の佐藤康之が訪れ、鑑識課の葛西と皆川が対応するが、成果は得られなかった。一方、出雲の旧家に嫁いだ滝坂由紀子は、元鍛冶職人だった祖父の佐田木泰治…