伊集院静「ミチクサ先生 下」

 漱石はやはり傑出した人物であり、文部省の第1回給費留学生に選ばれイギリスに2年間留学。帰国後は東大講師に就任。当初は学生の発音を厳しく指導し総スカンを喰らうも、妻から「聞いている人たちの心を鷲づかみにする方法を勉強してみては?」と示唆を受けると、一躍その講義は大人気を博する。それでも、漱石は教師が嫌でたまらず思い悩む。そして、遂に小説を書く。これがまた情景が目に浮かぶような珠玉の文章だ。しかし、漱石はただ文学の才能があるだけでなく、今で言えば編集者としても超一流。実に多方面で能力を発揮し、人間力が抜きん出ていたのであろう。

 漱石は今際の際に子ど