「澤田瞳子」の日記一覧

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伝説の盗賊

 澤田瞳子の「のち更に咲く」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史、時代小説をテリトリーとしている。大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞して作家デビューしいる。本書は、藤原道長を恨む伝説の盗賊袴垂一味を巡る騒動の顛末を、袴垂に擬せられた藤原保輔の妹の小紅の視点で描いた時代サスペンス小説である。  本書の語り手は、藤原道長の屋敷である土御門第で女房とし…

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澤田瞳子 の 「のち更に咲く」

★3.3 軽いノリのミステリー。 時代は道長の長女・彰子が長子出産の前後。主人公は道長の土御門第で働く下﨟女房の小紅。小紅の祖父は民部卿、参議を務めた家柄だが、父や兄が罪人となったため、肩身の狭い生活。 京を荒す盗賊が出没し、兄・保輔の復活が噂された。保輔は盗賊の首領として命を落としたと聞いている。小紅は土御門第に押し入った賊に捕まり、連れていかれたのは賊一味の塒。盗賊・袴垂を率いるのは空蝉と…

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三条天皇の妃達

 澤田瞳子の「月ぞ流るる」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史、時代小説をテリトリーとしている。大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞して作家デビューしいる。本書は、「栄花物語」の作者とされている赤染衛門を語り手とし、藤原道長と三条天皇の対立が描かれている。なお、本書で舞台回しとなるのは、比叡山の若い僧侶で数奇な生い立ちの頼賢である。  本書の主人公…

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澤田瞳子 の 「月ぞ流るる」

★3.4 NHK大河「光る君へ」では赤染衛門はいつ登場するのか。三条(居貞)天皇の時代(1011~1016年)の朝廷と平安貴族の姿を「栄花物語」の作者である朝児(赤染衛門)の視点で描く。特に宮廷内の娍子皇后の勢力図と三条天皇と藤原道長の確執を描くために、三条天皇の東宮時代の妃・藤原原子(定子の妹)の死因にまつわる謎解きを主軸としている。時代は「枕草子」が出て16年、「源氏物語」はその数年後に当た…

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京都への愛

 澤田瞳子の「天神さんが晴れなら」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史、時代小説作家をテリトリーとしている。大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞して作家デビューしている。本書は、著者が小説家になってから初めてのエッセイ集であり、2013年から2022年にかけて各種媒体に発表されたエッセイが収録されている。  本書の中にも書かれているが、著者は同志…

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改元の理由

 澤田瞳子の「吼えろ道真-大宰府の詩-」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史、時代小説作家をテリトリーとしている。大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞して作家デビューしいる。本書は「泣くな道真」の続編で、右大臣から大宰府に左遷された菅原道真の姿をコミカルに描いた時代小説である。なお、本書では前作の「うたたね殿」こと大宰少典龍野保積に代わり、大宰大弐…

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澤田瞳子 の 吼えろ道真 大宰府の詩

★.3.2 シリーズ2作目。前回の妹・恬子(後の小町)は東北へ移り、残された小野葛根(正に)1人が奮闘するが空回り。 前半はとるに足らない出来事で、作者の意図が読めずに苦労した。後半は京から唐物使として藤原俊蔭がやってきて、朝廷の求めた品がすり替えられた事件の探索となる。 同じ船で来た小野葛弦(大弐)の息子の好古と阿紀(後の小野道風)の動きは本筋とは関係なく、阿紀が道真に書を習う話が…

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博多津の骨董の目利き

 澤田瞳子の「泣くな道真-大宰府の詩-」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史、時代小説作家をテリトリーとしている。大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞して作家デビューしいる。本書は、右大臣から大宰府に左遷された菅原道真の姿をコミカルに描いた時代小説である。なお、本書の視点人物は、大宰府きっての怠け者で、「うたた寝殿」という仇名のある太宰少典龍野穂積…

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大海人王子と葛城王子

 澤田瞳子の「恋ふらむ鳥は」を再読した。著者は歴史、時代小説作家で、大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞して作家デビューしいる。本書は、大海人王子との間に子を生しながらも別れ、一人の人間、歌詠みとして生きた額田王の激動の半生を描いた歴史小説である。  額田王は鏡王の娘で大海人皇子(後の天武天皇)の最初の妃であり、彼との間に十市王女を生む。彼女は他…

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源平の盛衰

 澤田瞳子の「漆花ひとつ」を読了した。著者は若手の歴史、時代小説作家で、大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞してデビューしいる。本書は、公家の世から武士の世に変わりつつある平安時代末期に生きた庶民の姿を描いた時代小説の短編集である。  「漆花ひとつ」:30歳間近の下郎法師の応舜は絵が得意であり、絵を描くことに心が囚われ、ついつい修業がおろそかになる…

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輝ける山

 澤田瞳子の「輝山」を読了した。著者は若手の歴史、時代小説作家で、大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞してデビューしいる。本書は、江戸時代後期の石見国大森銀山で働く人々を描いた群像劇である。  春雷:本書の語り手は、石見国大森代官所の中間の金吾である。金吾はかつての上司で、現在は尾花沢代官所江戸屋敷に勤めている小出儀十郎から、代官の岩田鍬三郎の身辺…

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澤田瞳子 の 輝山

★3.5 「大森代官・岩田鍬次郎の挙動を見張り、わずかでも失態があればすぐに報告せよ」との上司の小出儀十郎の密命を受け派遣された中間・金吾の目を通して、石見銀山での7年間の出来事を描く群像劇。あの〈いも殿さま〉の活躍した100年後の頃の話である。ソババッケが2度も訪れた世界遺産の場所だけに現地を思い出しながら読むことになった。 縦糸となる岩田代官の使命や小出儀十郎の目的は何なのか、物語はミステ…

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澤田瞳子 の 星落ちて、なお

★3.5 直木賞受賞作品。幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師の奇才・河鍋暁斎の娘・とよの半生を描く。 物語は暁斎が亡くなった明治22年、とよ22歳から始まる。養子に出され17歳で戻った腹違いの兄・周三郎、遠縁に養子入りした5歳下の弟・記六、病弱な9歳下の妹・きくが身内。 200人を超える弟子の内、親身になって世話をしてくれるのは酒問屋・鹿島屋清兵衛、大きな質屋の真野八十吉親子。 5歳から…

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暁斎にとっての応為

 澤田瞳子の「星落ちて、なお」を読了した。著者は若手の歴史、時代小説作家で、大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞してデビューしいる。本書は、自らを画狂と称し、幕末から明治時代にかけて活躍した天才絵師河鍋暁斎の娘で、明治時代から昭和時代初期にかけて日本画家、浮世絵師として活躍した河鍋とよ(画号:暁翠)の半生の記である。  明治二十二年、春:物語は明治…

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著者別インデックス:国内(澤田瞳子)

1.京都はんなり暮し-京都人も知らない意外な話- (2008.06) 2.孤鷹の天 (2010.09) 3.満つる月の如し-仏師・定朝- (2012.03) 4.日輪の賦 (2013.03)   https://smcb.jp/diaries/5560497 5.ふたり女房-京都鷹ケ峰御薬園日録 1- (2013.05) 6.夢も定かに (2013.08) 7.関越えの夜-東海道浮世がたり- (…

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達磨の絵の御本尊

 澤田瞳子の「駆け入りの寺」を読了した。著者は若手の歴史小説家で、大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞してデビューしいる。本書は、比叡山の麓に建つ、豪奢な比丘尼御所の林丘寺を舞台に起こる様々な事件を通し、人間の哀歓を描いた人情時代小説の連作短編集である。  比丘尼御所とは、皇女、女王またそれに準じる公卿の娘が住持する尼寺のことであり、江戸時代に皇女…

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澤田瞳子 の 駆け入りの寺

★3.5 比叡の山裾にある林丘寺は歴代皇女を住持とする比丘尼御所。 隠居した83歳の先代住持・普明院元瑶と21歳の当代・元秀尼に仕えるのは20人の奥と呼ばれる尼たち。表で仕えるのは総取締役たる御家司・松浦織部の下に、寺内の事務に当たる御近習、雑用全般を務める青侍、半僧半俗の侍法師などが守っている。 物語は幼い頃に元瑶尼に育てられ恩義を感じ仕えている青侍・梶江静馬25歳の目で語られる。林丘寺内…

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捨てられた子供達

 澤田瞳子の「稚児桜-能楽ものがたり-」を読了した。著者は若手の歴史小説家で、大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞してデビューしいる。本書は副題にある通り、能の名曲をモティーフとした短編集であり、各篇の登場人物や舞台は謡曲のそれを踏襲しているが、内容は大幅に改変されている。  「やま巡り-山姥(やまんば)-」:遊女見習いで十二歳の児鶴は、美貌の姉遊…

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妖怪の感慨

 澤田瞳子の「名残の花」を読了した。著者は若手の歴史小説家で、大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞してデビューしいる。本書は、天保の改革後に失脚して丸亀城に幽閉されていたが、明治維新後に恩赦により東京に変わった江戸に戻った鳥居胖庵(耀蔵)の姿を描いた、能をモティーフとした時代小説の連作短編集である。  本書の主人公の鳥居胖庵は、江戸庶民から妖怪と呼…

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日輪と月読

 澤田瞳子の「月人壮士」を読了した。著者は若手の歴史小説家で、大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞してデビューしいる。本書は、暦史上初めて皇族以外の皇后を立てた、聖武天皇の遺詔を巡る時代小説である。なお、本書は、文芸誌の「小説BOC」で行われた、八名の作家による「人間の対立」をテーマにした競作である「螺旋プロジェクト」の中の一冊で、「古代篇」である…