さんが書いた連載介護の日記一覧

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「介護という仕事は」

幸いにして落ち込みは一日で回復した。落ち込んだ翌日が仕事だったからだ。 介護という仕事は認知症のお年寄りの相手で、さぞや大変でしょうと言われがちだが、実は楽しい。 その日一日を上機嫌に、或いは平穏に過ごせればいいのだ。方法は簡単。相手の嫌がる事をしなければいい。 「薬ですよ」 「嫌だ、飲みたくない」 「分かりました」 少し間を開けて違う職員が行く。 立ち上がった。後をつける。 「どうしま…

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「ご相談は無料です」

「オレ、どうかしたの?」 「体調悪くなって横になってたんですよ」 部屋から出て来た爺様の顔は普段通りだ。トイレから出て来た時は土気色だった。 青白い顔と言うが、もっと薄気味悪い、嫌悪感を催す色で、私は昼食を満足に食べられなかった。 爺様は昼食も食べず部屋で休んだら、具合が悪かった事すら忘れている。 帰宅すると、郵便受けに夕刊と一緒に一枚のビラが入っていた。 「コロナ禍の憂うつな日々、 …

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「いらない人ね」

美容院に行った。予約は出来ない店なので普段は行列の出来ている店だが、雨だから空いているだろうと思った。 誰もいなかった。代わりにママがいた。私はいつもの男性美容師にやってもらったが、白髪染めを塗った後の待ち時間にママはオモムロに現れた。 とにかく接客の神様みたいな女性で、私と男性美容師が話していた事をよく聞いていたのだろう、絶対に私に不快感を与えない内容で喋る喋る。こうなるともう聴くしかない…

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「もう生きているのが嫌になった」

直ぐに爺様の部屋に行った。爺様は掛け布団を顔まで引き揚げている。 「どうしたんですか」 布団から顔を出した。 「もう生きてるのが嫌になった。」 いつも遊びの中心になっている爺様が、お昼御飯の呼び掛けにベッドから出て来ないと同僚が言う。 始めてこうした言葉を聞いた時は、必死に言葉を掬い上げたものだ。今は違う。しゃあないなあ、男子はもう。 「それは辛いですね。私だってそういう気持ちになる事はあ…