さんが書いた連載二人旅の日記一覧

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「一人一泊5000円引き」谷川岳②

麦だ。麦秋。新緑の中に黄色が浮かび上がる。 私が育った雪国に麦は育たない。雪が一面を覆い尽くし何かが育つ余地などない。麦は冬の初めに種を撒き、寒風の中生長を続け、そして今頃収穫する。 これから生長していく稲と、生を終える麦。これを見られただけでも出掛けたかいがある。 山に行きたい気持ち止み難く、尚かついい制度がある事を知った。 「一人1泊につき最大5,000円割引+地…

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「外階段を登れなかったら諦めよう」谷川岳①

3年も前だ、山頂まで登ったのは。今まで登った山で一番キツかった。二度と登れないと思った。(『年を取ると出来無い事が増えると思ってた』https://smcb.jp/diaries/8104232) 来週行く、谷川岳。あの時は雲で山頂が全く見えなかったから登れた。遥か遠くにある山頂が見えていたら、登れなかった。 2回目の谷川岳は一ノ倉沢を見て、麓をトレッキングして、嵐のため途中で引き返…

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「カッコいい爺様を見た」

「夏用のシーツ買いたいからニトリ頼むわ」 私も息子も一緒に家にいるのは久し振りだった。 印西市にあるニトリの駐車場には結構車が停まっていた。入口を入ると目立つ場所に夏用の寝具が並んでいる。その種類の多いこと。 涼し気な水色を選んだ。ソファのカバーも枕カバーも同じようなものを選んだ。 「他に買い物ある?」 「まだ冷蔵庫一杯だからないなぁ」 「太平洋側行くか」 「いいねぇ」 田んぼ道に差し…

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「ホトトギス」

「ホ〜、ケキョケキョ」 「あっ、ラッキー!」 「声はすれども姿は見えずかぁ」 遠目にはすっかり葉桜になっていたが、新川の畔を歩き出した。既に4時半を回っている。まだ人がかなり歩いている。河津桜は近くで見ると、まだ十分美しい。 木々の間に見えるのは燕以上鳩未満の地味な鳥がいるだけだ。やはり鳥図鑑を買うか。 向こう岸までぐるっと一周した。息子には申し訳ない事をしてしまった。歩き出す前に「道の…

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「『安近短』から『安近単』へ」:鋸山

階段の上の方から「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト」という大きな声が聞こえて来た。若者だ。ジャンケンをして勝った人が出したグーチョキパーにより、歩を進める子供の遊びだ。 「誰だって楽しみたいよね」 私達は急な階段を登る。若者達の脇を通り抜ける時、彼等は黙っていた。コロナになってから若者への風当たりが強いが、人の中で喋っているのは大抵オバサンかオジサンだ。 大仏前に出た。山の壁面に彫られた姿は、風雨に晒…

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「川端様は凄かった」

海岸沿いの道はまさにつづら折り。 「よし、運転に集中」 息子は殆ど直線コースがない道で言った。右手は断崖、「碧」という漢字を当てはめたくなる深い青色が見え隠れしている。 いくら走ってもカーブ続きだ。西伊豆を走るのは初めて。東名高速を降り、沼津から南下した。 「流石に酔いそうだ。」 「一年分のカーブを走ったね」 海に突き出た岩と空の青が美しい。絶景を堪能したくなる場所には必ず駐車スペースが…

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「課すべきは禁止項目じゃない」

「ごめん、今月出られない。」 「あらいいのよ。中止になったから。」 月に一度歌の会がある。友人はそこの運営を手伝っている。場所は地域の公民館だから、オミクロン株のせいで中止に追い込まれるのではないかと心配していた。 あの人はどうしているだろうと思った。前回私は久しぶりに参加したのだが、前のパイプ椅子に座っていた女性が、旧知の知り合いのように話し掛けて来た。 「楽しみなのよ、ここ。家にいたっ…

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「女が変わる時って」

片手でカートを引いた婆様がゆっくり横断歩道を渡って来る。真っ直ぐ私に向かっている。こんな場所に知り合いがいる訳ない。 「今日は集まってるわね」 直前に私の周りに鳩が5~6羽集まって来ていた。 「そうなんですよ、急に集まって来たんです。私が食べ物を持っているとわかるんでしょうか」 私は駅ナカでプリンのような「食べるスープ」を二つ買っていた。 「荷物よ、貴女が荷物を持っているからよ。この前男の人が…

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「令和4年元旦」

東京湾が狭い。 今までも正月の東京は空気が澄み、ビル群がはっきり見えていたが、今日のは格別だ。 東京湾を挟んで千葉市幕張から東京を見る。毎年の恒例行事だ。もうスモッグと言う言葉は死語だ。あの東京の空に黒っぽい空気が浮かんでいたのは遥か昔の事だ。 その後ろに富士。雪で真っ白な姿を惜しげもなく見せている。右手には山並みまで見える。 幕張の海にはウィンドサーフィンの帆が浮かぶ。立入禁止にはしな…

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「群馬は見どころ満載」妙義山④

「道の駅みょうぎ」で買い物でもしようと立ち寄ると生憎定休日だった。爺様達が店の前に座り話し込んでいるから、てっきり開店しているものとばかり思っていた。 「高尾山とは訳が違うんだ」とか、 「大勢滑落してんだ」とか、 「妙義、ナメんなよ」だとか。 聞こえて来る。私達もそれは分かっていて初めから山頂など目指さなかった。いいなあ、ああして日向で一日ノンビリだ。 そのまま帰る気にもなれず、車を走らせる…

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「今が一番若い」妙義山③

息子の足が落ち葉に沈む。私はその後から行く。危ないのはふんわりした落ち葉。急峻な登りや、片側が崖になった場所じゃない。 ホテルの夕食会場は一階だったが、朝食は11階と聞き、想像を膨らませていた。テレビで見る朝日に赤く染まった山。あれがもしかしたらこの目で見られる。 朝食前に大浴場に行こうとエレベーターの前に行った。直ぐに引き換えした。スマホだ。山と反対側から朝日が登る。 大浴場から見える…

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「妙義山のためのホテル」妙義山②

今回は山には登らない。ただ妙義山を眺めるホテルでのんびりして来る。 山には登らなくても、いつでも出掛けられるようにリュックは仕上がっている。山から帰ったらその日のうちに衣類は洗濯、登山靴やコッヘルも洗い、翌日元通りにリュックを再現しておく。それをポンと息子の車に乗せてある。 雪で真っ白な浅間山に感激した後、晴れ渡った青空にギザギザの稜線も見えて来た。 このままホテルに行くと早過ぎる。 「め…

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「生きてるだけで丸儲け」妙義山①

「ギャーッ!」 とてもじゃないが、「キャーッ」じゃ足りない。富士山だ。真っ白な雪をかぶっている。待て待て、あんな方角に富士山が見える訳がない。 東京から北上しているのだ。ここは群馬県。裾野の広い赤城山は右手のはずだから、あれは浅間山だろう。 確かめるにはスマホ様。「関越自動車道から見える浅間山」。間違いない。周りの山々には全く雪がないのに、この山だけ砂糖菓子のように白い。 空は真っ青な快晴…

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「行くなら今、冬の始まり」霧ヶ峰②

「おっ、元気だねぇ。何食べてるの?」 天文台のような丸いドームがある建物の陰に、防寒着を着込んだ爺様が腰を下ろし、何やら食べている。爺様は私の半袖姿に驚いたらしい。 知らない爺様にいきなり言われ、思わず笑って答えた。 「肉! 牛肉!」 私は前日、ホテルの夕食バイキングで牛肉をかなり平らげた。ステーキも牛肉のリンゴ煮も美味しかった。 朝、朝食会場の大きな窓からは蓼科湖が直ぐそこに見えたが、…

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「やっと晴れた」霧ヶ峰①

長野県には何度も来ているのに、まさかこれ程の絶景があろうとは。 今までビーナスラインは走ったが、こちらにもあったのだ。白樺湖から上がって行くと、それまでと全く違う風景が展開する。 高い木はなく、1メートルにも満たないススキが生えている。丸みを帯びた丘のような山は、ヴィーナスの胸しか連想できない。時々白い幹の白樺と思われる木々がまるで絵画のように配される。 霧ヶ峰。エアコンの名前に選ばれる訳…

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「土砂降りの谷川岳トレッキングコース」:谷川岳②

「オーマイガー…」 言葉がないとはこの事だ。目の前に聳える岸壁は恐らくは半分程しか見えていない。切り立った崖の上の方は雲に隠れている。 一体誰がこの垂直の崖を登ろうなどと考えるだろう。これが世界一死者の多い山、谷川岳なのだ。美しい。いつまで見ていても飽きない。 天気がよくない事は分かっていた。ところが、ホテルの朝食は青空を見ながらだった。谷川岳には登らないからとあれもこれも食べた後に、揚げ…

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「いよいよ谷川岳です」:谷川岳①

「下まで下りるぞ」 「えっ?!400段以上あるよ」 ここには一度来た事がある。下りる事など考えられない。 「ここまで来たら行くしかないでしょう」 真っ直ぐ一直線に下に延びている階段。子供の頃家族みんなで見たテレビ『タイムトンネル』にそっくりだ。 地下深くに下りて行くトンネルは、明かりがなければ真っ暗だろう。人っ子一人いない。 下りだした。足音が大きく反響する。5段毎に踊り場がある。数も…

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「あんなに高かったか」那須②

目覚めるとやはり雨の音がした。4階の露天風呂に入った。誰もいなかった。透明な湯の中で自分の足を見る。この足の耐用年数など誰にも分からない。目一杯雨を楽しもう。 ホテルでレインスーツを着込んで那須岳(茶臼岳)に向かう。曲がりくねった道を上って行くと、突然視界が開けた。 「持ってるねぇ」 「雲の上に出たんだ」 眼下には雲海。 「こんな景色、滅多に見れないよ」 渋滞など全くなく、駐車場もガラガラ…

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「記憶にないんだけど」那須①

「ねぇ、ここ記憶にないんだけど」 「パターン変えてみた」 ホテルの外観に覚えがない。『大江戸温泉物語』には違いないが、ここは『那須塩原かもしか荘』。去年泊まったのは『ホテルニュー塩原』か、フロントは大行列だった。 那須岳(茶臼岳)を一年に一度は訪れたい。先週の尾瀬に続き2週連続の遠出だ。さすがに品川駅までは普通に過ごしたと言いたいが、バスでは後ろの席で喋る二人連れが気になって仕方な…

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「尾瀬の思い出から:尾瀬④」

「足、マッサージしてみる?」 娘が言う。娘は新しく買った機械を棚から下ろした。 娘は「最初は『弱』でやってみたら」とボタンを押した。力強かった。二度目は強くした。まだ尾瀬の疲れが残っていたのだ。 尾瀬は今回も含めて4~5回行ったが、最初の思い出が楽しかった。家族だけでなく親戚まで含めて大型のマイクロバスを借りて行った。私は大学生で東京で一人暮らしをしていたから、家族みんなで行くのは格別だっ…