済州島の春風

 帚木蓬生の「受難」を読了した。著者は現役の医者で、福岡県で心療内科を開業する傍ら、小説の執筆を続けている。本書は、韓国で起こったセウォル号転覆事件をモチーフとし、それとiPS細胞を用いた人体再生を組み合わせた、近未来SF風サスペンス小説である。
 津村リカルド民男は、博多の百道に細胞工学研究所を開設し、ES細胞やiPS細胞を用いた再生医療を行っており、3年先まで手術の予約が埋まる程の盛況であり、4年前に韓国全羅南道の麗水に治療院を設け、韓国にも進出を図っている。麗水の治療院の事務長の金東源はかつて、津村とともに北朝鮮で、その国の独裁者の暗殺を企てた同志