盃に映る名月飲み干して

 満月の紅き球体出で来る  誓子

 満月の蔭の渚の濡れそぼつ  岸田稚魚 筍流し

 満月の重力を着て老いてゆく  荒木洋子

  満月の野の翳となる忘れ鍬  小出秋光

  満月の鏡を運び写さるる  小檜山繁子

  満月の闇分ちあふ椎と樫  永方裕子

  満月の鳥獣戯画や入りつ出でつ  加藤秋邨 まぼろしの鹿

 満月は山越阿弥陀かも知れぬ  平井照敏 天上大風

  満月は沖を離るる親不知  阿波野青畝

  満月は虫の卵をあたたむる  鳥居おさむ

 満月へ友去るどんどん空に浮き  金子兜太

 満月へ書架の金文字翔ちゆけり  藤井冨美