もう一人の近松

 大島真寿美の「渦-妹背山婦女庭訓魂結び-」を読了した。著者は劇団を主宰し、脚本・演出を担当した後小説家に転じ、1992年「春の手品師」で第74回文學界新人賞を受賞して作家デビューしている。本書は、「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」等の名作を残した、人形浄瑠璃作者近松半二の一代記である。
 本書の主人公の半二は、大坂で私塾を開いている儒者の穂積以貫の次男として生まれ、成章と名付けられる。成章は幼少時聡明を謳われ、儒者としての将来を嘱望されていた。しかし、人形浄瑠璃狂いで道頓堀の竹本座と関わりのあった父親が、しばしば成章を竹本座に連れて行ったため、成章は人