金子啓明「運慶のまなざし 宗教彫刻のかたちと霊性」

 運慶の生涯が語られる時、「運慶願経」を行ったことは必ずと言っていいほど取り上げられるので知ってはいたが、運慶自身が強い仏教信仰者であるということには思い至らなかった。安阿弥と称していた快慶は重源上人に深く帰依して熱心な阿弥陀如来の信者であったことはよく知られているが、運慶自身も仏教信仰者であることはあまり語られていないように思う。しかし、本書を通じて運慶がなぜあのような鬼気迫る仏像を製作できたかが納得できた。

 運慶は制作する仏像に関連する経典や、その仏像が果たす役割等を深く理解し、その精神世界まで仏像で表現しているのである。その代表例が興福寺北円堂