『くもり風』

『もう、起きてる?』
『起きてるから、こうやって話してる』
『そうね』
『どうした?』
『どうもしない』
『そんなわけないと思うけど』
『そうなんだけど』
『言ってみろよ」
『うん、じゃあ言うわ。笑わないでね』
『笑おうかな』
『いいわよ。好きなだけ、笑って』
『冗談、冗談、早く、言えよ』
『明日、庭にいる私を見て、それだけ』
そう言うと、彼女は、静かに電話を切った。
くすっと笑う彼の部屋の窓越しの雲は、風の向こうを、静かに流れていった。

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