池波正太郎「鬼平犯科帳5」

 鬼の平蔵は縦横無尽、融通無碍。残虐な悪党は手足を切り落としなぶり殺しにするかと思えば、発達遅滞の亀吉には1点の曇りもない純真な笑顔で笑いかけたりする。元盗人でも、今は足を洗って余命半年もない万三には目こぼしをして、よい最期を迎えろと声をかける。女の素性を探るために、自ら浪人風の身なりをして昼から料理茶屋で酒を飲み、うたた寝までする。何より、盗人の一味の者さえその人柄の魅力により、何人も密偵として自らの配下に取り込んでしまう懐に深さには感服してしまう。

 7編の短編どれも面白いが、出色は「兇賊」だろうか。網切の甚五郎が平蔵の命を狙い、すんでのところで命