連載:恥と痛苦に耐えて生きる覚悟

恥をさらし、痛苦に耐えて生きる覚悟  芭蕉の「かるみ」(3)

 (3) 「奥の細道」の前の旅、そして、あとの旅

 江戸時代の旅は現在ほど安全ではない。「生類憐れみの令」で多少は旅人の安全が保障されたが、旅の途中で亡くなり「野ざらし(行き倒れ)」になる覚悟も必要である。

野ざらしを心に風のしむ身かな

 1684年8月から翌年4月にかけて、芭蕉は門人の千里(ちり)とともに故郷の伊賀上野への旅をした。その紀行文の冒頭にこの句を掲げたので「野ざらし紀行」という。しかし、「野ざらし(行き倒れ)」は縁起が悪いし、出立が甲子だったので「甲子吟行」の名もある。そう呼ぶ人の方が多い。発句中心