思い出の京都~京都迎賓館 15

吉野杉、または秋田杉の中杢板、長さ12メートルで500ミリ幅の天井板。大広間「桐の間」の図面に書かれた仕様は、こうでした。
木を扱う者にとっては常識外れの寸法。「そんな長い材、持ってるとこはない」。読みながら、数寄屋大工の棟梁山本隆章さんは思いました。板がないなら、立ち木で買うしかないが、挽いてみるまで中のわからない原木買いは賭けに近い。誰も手を上げなかったそうです。
「京都はできんかった、とは言われたくない」。山本さんは、木を探そうと心に決めました。
出会ったのは、吉野の山に入って最初の日。樹齢280年ほどの木が急な傾斜地にすっくと立っていました。山の神の存在を感じるほど、見事な木だったそうです。
挽いたのは、三重県松阪市の製材所。13メートルの木が割れて、節一つないピンク色の木肌が現れました。山本さんは「あの光景は一生忘れない」と話しました。
木にとって乾燥は大切です。足りなければ仕事が台無しになります。生えていたのが水の少ない場所で、含水量が少なかったのです。伐採の後、幹の皮をむき、枝をつけたままの葉枯らしもうまくいきました。挽き割り後、保管した倉庫も乾燥しやすかったそうです。
とれた板は30枚。京都迎賓館で使い切りました。
手作業のかんながけ。板を持ち上げるのは7人がかり。板に手を入れる際は、手が震えるほど緊張したそうです。一つひとつが、たいへんな仕事ですが、美しく仕上がった天井からは、そんな苦労など少しも見えません。
「思えば不思議なことばかり。あの木は生きていた時から、収まる場所が決まっていた」。山本さんは、そう思っています。

撮影:2018(平成30)年12月13日

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