「朝井まかて」の日記一覧

会員以外にも公開

大岡越前守の悩み

 朝井まかての「悪玉伝」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸時代最大の疑獄事件と呼ばれた大坂の辰巳屋疑獄事件を題材にした物語である。本書は、主人公で事件の当事者である木津屋(辰巳屋)吉兵衛の視点と、寺社奉行に出世した大岡越前守忠相の事件を裁く側の裏を見通す視点の、二つの視点で描かれる。  主人公の木津屋吉兵衛は大坂の薪問屋の辰巳屋に生まれたが、父親の実…

会員以外にも公開

朝井まかて の 草々不一(そうそうふいつ)

★3.5 草々不一(そうそうふいつ)とは 手紙の末尾に書いて簡略を詫びる語らしい。武家のしがらみや生き方を描いた8つの短編。 赤穂の大石家に拾われた野良犬・唐之介の視点で一家の気遣いを描く「妻の一分」。小藩の留守居役の視点で配下の無礼打ちを絡め職責の重要性を描く「落猿」。番方を隠居した老武士が妻の残した漢字の多い遺言書を読めるようになろうと手習所に通う「草々不一」。などの物語が好みかな。 い…

会員以外にも公開

朝井まかて の 悪玉伝

★3.5 松井今朝子の「辰巳屋疑獄」から15年、今度は地元の作者の挑戦である。金融業にまで大きく成長した大坂の炭問屋・辰巳屋の身代をめぐる疑獄事件を解き明かす。 大坂町奉行所での訴訟問題は江戸の箱訴にまで発展し、贈賄にからむ多くの犠牲者を伴った。大岡忠相の評定所(寺社奉行)時代に残した日記をもとにした史実を扱う。 物語には2つの密約が準備されている、1つは象牙造りの観音像もう1つは金銀の為替…

会員以外にも公開

昔々、あるところに

 朝井まかての「雲上雲下」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、物語の喪失の危機を語るファンタジーである。  本書の物語の語り部は、丈は二丈で根許が一抱えもあろうかという草の「草どん」である。草どんが根を張る草原は、断崖絶壁の大樫の洞を通り抜けたところにあり、その洞を通るしか行く方法がない。その草どんのところにある日一匹の子狐が現れ、草どんに懐いてしまう。子…

会員以外にも公開

読む落語

 朝井まかての「福袋」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸の市井で生きる人々の姿を描いた、八篇からなる時代小説の短編集である。  「ぞっこん」:本篇の語り手は、「わら栄の御前」と呼ばれる筆。その筆の最初の持ち主は三代目鳥居清忠だったが、清忠を尊敬する看板字職人で神田豊島町の藁店に住む栄次郎が、粘りに粘って貰い受ける。栄次郎はその筆を大事にし、中々仕事に…

会員以外にも公開

究極の道楽

 朝井まかての「銀の猫」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸の市井で「介抱人」という職業に生きる一女性の人生を描いた時代小説である。  本書の主人公のお咲は、五郎蔵とお徳夫婦が経営する口入屋の鳩屋の紹介で、ここ三年「介抱人」をしている。介抱人とは、老人の介護を家族に替わって行う専門職で、著者が創作した架空の職業と思われる。お咲は以前は鳩屋の紹介で女中奉…

会員以外にも公開

朝井まかて の「銀の猫」。

★3.3 お咲は「介抱人」として派遣される身。泊まり込みで3日勤め、1日休むのが決まり。 日本橋豊島町の「鳩屋」は五郎蔵とお徳の夫婦が営む口入屋で、介護のための専門の女を紹介するのが生業。 物語は派遣先の老㖨な者やその家族とのしがらみを絡めた教訓めいた話が続く。人それぞれの立場や心の有り様は皆異なる。それをいかに汲み取ってやるのかがこの物語のテーマなのかな。 お咲は本郷の菊坂台町の裏長屋に…

会員以外にも公開

生類憐みの令の真実

 朝井まかての「最悪の将軍」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、徳川幕府第五代将軍綱吉の半生を、綱吉および公家出身の妻信子の視点で描いた歴史小説である。  綱吉は第三代将軍家光の第四子であり、館林藩の藩主となり、館林宰相と呼ばれていたが、延宝8年(1680年)、彼の長兄で第四代将軍家綱が跡継ぎ不在のままに重篤となったため、御三家の当主と幕閣が協議する後継者…

会員以外にも公開

10万本の献木

 朝井まかての「落陽」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、明治神宮造営をモチーフとし、明治という時代と、その時代を生きた日本人の精神を問う歴史小説である。  本書の物語は、明治45年に始まる。本書の主人公の瀬尾亮一は、旧制五高から東京帝大へ進むが、近代文学に傾倒して中退した若きインテリである。帝大中退後は、一流新聞社の万朝報に入社したが、女性問題によりそこ…

会員以外にも公開

呉服之間の女達

 朝井まかての「残り者」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸城明け渡しの日に、大奥に居残った五人の女性を描いた時代小説である。  物語は慶応4年(1868年)4月10日に始まる。4月8日に大総督府から徳川家へ 「江戸城明け渡し」の沙汰があったため、天璋院(13代将軍家定御台所)はこの日、江戸城西丸の大奥を立ち退き、 御三卿の一つである一橋家の邸に引き移…

会員以外にも公開

朝井まかての 「落陽」。

★3.5 「鎮座百年記念 明治神宮境内総合調査」が行われ、NHKで2016年「明治神宮 不思議の森 〜100年の大実験〜」が放送された。 物語は100年前にこの森が計画された経緯を追う新聞記者の物語。150年後に常葉広葉樹の森となる壮大なる実験とは。 立志伝と醜聞、艶種で成り立っている東京の小新聞で、記者の瀬尾亮一は取材で得たネタをもとに強請りまがいのことまでやっている。 そんな亮一が神宮…

会員以外にも公開

朝井まかて の「残り者」。

★3.5 江戸城引き渡しの前夜、大奥に居残った者が5人いた。 天璋院の「呉服之間」の針子・りつ、「御膳所」の仲居・お蛸、「御三之間」の女中・ちか、静寛院宮(和宮)の針子・もみじ、天璋院付きの中臈・ふきである。 静寛院宮は田安邸に、天璋院は一橋邸に移っている。 物語はりつによって語られるため、天璋院の傍らでミシンを扱う話かと思ったのだが、そうではなかった。 大奥の機能やそこに仕える千人余の者…

会員以外にも公開

光の影と陰

朝井まかての「眩(くらら)」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、葛飾北斎の娘で、父親の片腕としてその画業を助けるとともに、自らも浮世絵師として光と色を終生模索し続けた葛飾応為(おうい)の半生を描いたものである。  北斎の娘のお栄(号は応為)は、不美人の上にガサツな性格であり、幼少時から父に絵の手ほどきを受け、二十二歳で町絵師の南沢等明に嫁ぐが、夫の下手な絵…

会員以外にも公開

朝井まかての「眩 (くらら)」。

★3.7 表紙は「吉原格子先之図」。珍しく光と影を浮世絵に持ち込んだ作品。 お栄は葛飾北斎の娘、北斎は90歳と長命であったが、その片腕として画業に打ち込むお栄は興味深い存在ではあった。 その人物像を生涯を語る物語としてうまく作り込んでいる。 娘の視点で北斎を描いているが、河治和香の「国芳一門浮世絵草紙」に通じるところもあって面白い。 北斎が中気で倒れたとき、滝沢馬琴が訪れ「いつまで養生し…

会員以外にも公開

名医の条件とは

朝井まかての「藪医 ふらここ堂」を読了した。朝井まかての「御松茸騒動」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、神田三河町で開業している小児医天野三哲とその18歳の娘おゆんの生活を描いた時代小説で、9編からなる連作短編集である。  三哲は朝が弱く、無愛想で面倒臭がりやの上、患者を選り好みするため、近所からは藪医者扱いで、家の庭の山桃の木に、おゆんが幼い時に造った…