大岡越前守の悩み
朝井まかての「悪玉伝」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸時代最大の疑獄事件と呼ばれた大坂の辰巳屋疑獄事件を題材にした物語である。本書は、主人公で事件の当事者である木津屋(辰巳屋)吉兵衛の視点と、寺社奉行に出世した大岡越前守忠相の事件を裁く側の裏を見通す視点の、二つの視点で描かれる。 主人公の木津屋吉兵衛は大坂の薪問屋の辰巳屋に生まれたが、父親の実…
朝井まかての「悪玉伝」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸時代最大の疑獄事件と呼ばれた大坂の辰巳屋疑獄事件を題材にした物語である。本書は、主人公で事件の当事者である木津屋(辰巳屋)吉兵衛の視点と、寺社奉行に出世した大岡越前守忠相の事件を裁く側の裏を見通す視点の、二つの視点で描かれる。 主人公の木津屋吉兵衛は大坂の薪問屋の辰巳屋に生まれたが、父親の実…
朝井まかての「雲上雲下」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、物語の喪失の危機を語るファンタジーである。 本書の物語の語り部は、丈は二丈で根許が一抱えもあろうかという草の「草どん」である。草どんが根を張る草原は、断崖絶壁の大樫の洞を通り抜けたところにあり、その洞を通るしか行く方法がない。その草どんのところにある日一匹の子狐が現れ、草どんに懐いてしまう。子…
朝井まかての「福袋」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸の市井で生きる人々の姿を描いた、八篇からなる時代小説の短編集である。 「ぞっこん」:本篇の語り手は、「わら栄の御前」と呼ばれる筆。その筆の最初の持ち主は三代目鳥居清忠だったが、清忠を尊敬する看板字職人で神田豊島町の藁店に住む栄次郎が、粘りに粘って貰い受ける。栄次郎はその筆を大事にし、中々仕事に…
朝井まかての「銀の猫」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸の市井で「介抱人」という職業に生きる一女性の人生を描いた時代小説である。 本書の主人公のお咲は、五郎蔵とお徳夫婦が経営する口入屋の鳩屋の紹介で、ここ三年「介抱人」をしている。介抱人とは、老人の介護を家族に替わって行う専門職で、著者が創作した架空の職業と思われる。お咲は以前は鳩屋の紹介で女中奉…
朝井まかての「最悪の将軍」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、徳川幕府第五代将軍綱吉の半生を、綱吉および公家出身の妻信子の視点で描いた歴史小説である。 綱吉は第三代将軍家光の第四子であり、館林藩の藩主となり、館林宰相と呼ばれていたが、延宝8年(1680年)、彼の長兄で第四代将軍家綱が跡継ぎ不在のままに重篤となったため、御三家の当主と幕閣が協議する後継者…
朝井まかての「落陽」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、明治神宮造営をモチーフとし、明治という時代と、その時代を生きた日本人の精神を問う歴史小説である。 本書の物語は、明治45年に始まる。本書の主人公の瀬尾亮一は、旧制五高から東京帝大へ進むが、近代文学に傾倒して中退した若きインテリである。帝大中退後は、一流新聞社の万朝報に入社したが、女性問題によりそこ…
朝井まかての「残り者」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸城明け渡しの日に、大奥に居残った五人の女性を描いた時代小説である。 物語は慶応4年(1868年)4月10日に始まる。4月8日に大総督府から徳川家へ 「江戸城明け渡し」の沙汰があったため、天璋院(13代将軍家定御台所)はこの日、江戸城西丸の大奥を立ち退き、 御三卿の一つである一橋家の邸に引き移…
朝井まかての「眩(くらら)」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、葛飾北斎の娘で、父親の片腕としてその画業を助けるとともに、自らも浮世絵師として光と色を終生模索し続けた葛飾応為(おうい)の半生を描いたものである。 北斎の娘のお栄(号は応為)は、不美人の上にガサツな性格であり、幼少時から父に絵の手ほどきを受け、二十二歳で町絵師の南沢等明に嫁ぐが、夫の下手な絵…
朝井まかての「藪医 ふらここ堂」を読了した。朝井まかての「御松茸騒動」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、神田三河町で開業している小児医天野三哲とその18歳の娘おゆんの生活を描いた時代小説で、9編からなる連作短編集である。 三哲は朝が弱く、無愛想で面倒臭がりやの上、患者を選り好みするため、近所からは藪医者扱いで、家の庭の山桃の木に、おゆんが幼い時に造った…