「朝井まかて」の日記一覧

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武家再興の夢

 朝井まかての「秘密の花園」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、江戸随一の戯作者となりながらも、生家の滝沢家再興の夢を捨てきれなかった曲亭馬琴の一生を描いた評伝小説である。  物語は隠居した家の庭の花園を手入れしていた馬琴が、妊娠している息子の嫁の路に声を掛けながら、年上の妻の百の許に入り婿になった頃から過去までを回想する場面から始まる。その花園…

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朝井まかて の 「秘密の花園」

★3.4 戯作者曲亭馬琴の生涯。これまで群ようこの「馬琴の嫁」、西條奈加「曲亭の家」、梓澤要「ゆすらうめ(恋戦恋勝)」などを読んできたが、いずれも嫁の路の視点だった。自身の視点となる小説は初めて。 以下、気になったことをメモしてみた。 旗本の家臣の家に生まれたが、主君に仕えることができない性格。浪人になったのは22歳。俳諧仲間などを頼り何とか生活していたが、戯作者で有名な山東京伝に押しかけの弟…

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天皇の午餐会

 朝井まかての「朝星夜星」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、大阪初の洋式ホテルである自由亭ホテルを開業した草野丈吉と妻ゆきの半生を、妻の視点で描いた評伝小説である。  ゆきは肥後の貧乏百姓の家に生まれ、十二歳の春に長崎丸山町の傾城屋引田屋に奉公に出ている。ゆきは骨太であったため、祖母の反対により女郎ではなく、女中として奉公したが、齢とともに背…

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朝井まかて の 「朝星夜星(あさぼしよぼし)」

★3.3 朝星夜星とは、朝は夜明け前から、夜は日暮れまで精を出してみっちり働くことで、昭和の中頃までは使われていた言い回し。幕末の長崎で初の洋食屋を始め、明治の大阪でレストラン兼ホテルを開いた料理人・草野丈吉と妻ゆきの物語。 ゆきは肥後の百姓の生まれ、12歳で長崎丸山町の傾城屋・引田屋の下女として奉公に上がり、25歳で1つ下の丈吉の妻となる。出島の商館が4年前に廃止され領事館になっていると…

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読書日記 「ボタニカ」 朝井まかて著

短歌を勉強していると「草花の名まえは、日頃から植物図鑑を見て勉強しておくこと」とよく言われます。この本は、牧野日本植物図鑑を表した、日本の植物学の元祖牧野富太郎の生涯を従妹の猶(なお)や愛妻壽衛(すえ)と家族の奮闘を描いている。 ボタニカとはイタリア語で植物学をさしている。1862年(文久2年)高知県佐川町の豪商の家に生まれた富太郎は、幼少から植物に興味を抱き、全国を植物採集に歩きまわり独学…

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朝井まかて の ボタニカ

★3.3 「日本の植物学の父」といわれる牧野富太郎(1862~1957)の生涯。ボタニカはラテン語で植物学のことらしい。 子供の頃から異常に植物に興味を持ち、西洋に遅れる植物の研究に没頭する。己で野山に分け入り、採集、標本作りを独力で行う。 学位のような権威に類するものに全く興味を抱かず、経済的観念も全くない奇人。俸給月30円の時代に3万円の借金とは。高知の実家が裕福であったこと、妻の壽衛(…

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日本植物学の父

 朝井まかての「ボタニカ」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、日本植物学の父とも言われる、牧野富太郎の生涯を描いた評伝小説である。  本書の主人公の牧野富太郎は、文久二年に土佐国佐川村(現在の高知県高岡郡佐川町)で生まれる。実家は岸屋という屋号の造り酒屋兼商家で、村一番の富豪である。しかし、彼の両親は彼が幼い時に結核で亡くなっており、彼は祖父の後…

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読書日記 何もなしえなかった男 類 朝井まかて著

NHK朝ドラの「カムカムエブリバディ」で好演する深津絵里さんの類(るい)と関係はないものの、書名が気になって読んだ。 文豪を父にもち、働かなくてもいい人生が用意された男森類の一生を描く。 大正12年森鴎外の死後、類は11歳、進学するも友人もなく、長姉茉莉(まり)次姉の杏奴(あんぬ)とともに過ごし、青年期には茉莉に付き添って巴里への絵画修行にもで出かけ帰国後は画家の真似事をしながら優雅な暮らしを…

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日本人初のイコン画家

 朝井まかての「白光」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、日本人初のイコン画家である山下りんの生涯を描いた評伝小説である。なお、イコン(聖像画)とは、イエス・キリスト(イイスス・ハリストス)、聖母マリヤ(生神女)、使徒、天使、聖書における重要出来事や喩話等を描いた画像であり、現在我々が無意識に使っているアイコンという言葉の語源でもある。  本書の…

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無能の人

 朝井まかての「類-Louis-」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、森鷗外の「不肖の子」と終生言われ続けた、三男の森類の生涯を描いた伝記的小説である。なお、森鷗外には、先妻の登志子と間に生まれた長男の森於菟、後妻の志げとの間に生まれた長女の森茉莉、次女の小堀杏奴、夭折した次男の不律、と類の五人の子供がいるが、それぞれオットー、マリ、アンヌ、フリ…

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著者別インデックス:国内(朝井まかて)

1.実さえ花さえ (2008.10)   https://smcb.jp/diaries/4523105 2.ちゃんちゃら (2010.9)   https://smcb.jp/diaries/4614653 3.すかたん (2012.01)   https://smcb.jp/diaries/4753462 4.先生のお庭番 (2012.08)   https://smcb.jp/diarie…

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松井須磨子の後継者

 朝井まかての「輪舞曲(ロンド)」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、夫と息子を捨てて27歳で単身上京し、大正後期から昭和初期に新劇を代表する女優になりながらも、数え年40歳を目前に、満38歳で亡くなった伝説の名女優伊澤蘭奢(本名:三浦繁)の半生を、彼女を取り巻いた男達の眼で描いた伝記的小説である。  物語は蘭奢が亡くなった直後、彼女の愛人であり…

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長崎三大女傑

 朝井まかての「グッドバイ」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、幕末から明治にかけての長崎三大女傑の一人である大浦慶の半生を描いた歴史小説である。  長崎の油商大浦屋の女主お希以(けい、後に慶と改める)は、文政11年(1828年)、家付き娘の佐恵と入り婿の大浦太平次との次女として生まれるが、太平次夫婦に男児が生まれなかったため、総領娘として育てら…

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売色御免

 朝井まかての「落花狼藉」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、江戸時代初期の、傾城町の吉原の誕生から浅草田圃への移転までの歴史を、遊女屋の西田屋の女将の花仍(かよ)の目から描いた時代小説である。  物語は徳川家康が薨去した翌年の元和3年(1617年)に始まる。主人公の花仍は、日本橋の近くにある傾城町吉原にある西田屋の女将であるが、二十三歳と若く、見世の者達…

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朝井まかて の グッドバイ

★3.5 「天翔ける女」から40年、「お庭番」の作者が同じ長崎が舞台の女商人・大浦慶の生涯を描く。「龍馬伝」では余貴美子が演じていた。 幕末の長﨑、油屋町で菜種油問屋・大浦屋の跡取り娘・慶は油商いの先細りに、新事業を考えていた。わずかの伝手から日本の緑茶を輸出するまでに漕ぎ着けた。長﨑開港後の輸出額の2割にまで拡大し財をなす。 アメリカ向けの緑茶は静岡茶に圧され始めた時、慶は煙草の輸出業の保…

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さむらいの哀しさ

 朝井まかての「草々不一」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、主として武士の人生の哀切を描いた時代小説の短編集である。  「紛者」:佐竹信次郎は兄の不祥事のために、武士の風上にもおけない紛い者と嘲られ、養子に入った婚家から離縁されたために、脱藩する。流れ着いた江戸で信次郎は、深川芸者ではあるが超肥満体で年上のふくに食わせて貰っている。その新次郎が、複数の武…