さんが書いた連載癌の日記一覧

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「根拠のない楽観的な言葉」

4時にはお兄ちゃんのお迎えに行くように言われていた。お兄ちゃんは早いお迎えに喜び、△△神社に行きたいと言う。 「いいよいいよ、自由だぁ。ママがいいと言いますように」 娘にラインしてOKを貰う。 目的はうんてい。以前は出来たのにまた出来なくなっていたのだ。お兄ちゃんは筋肉を鍛えるために鉄棒にぶら下がり懸垂の真似事までしていた。 さあ、今日はどうかと思っていたら、数回失敗した後最…

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「乳癌患者はブラを買う」

「異常ないですね」 「ありがとうございます」 朝8時には家を出た。採血コーナーに大勢が並んでいる。私も最初に済ませなければならない。 それからマンモグラフィ。これは痛いと分かっているから緊張した。乳房を信じられないくらい潰される。 胸のレントゲン撮影は正面と横から。次は超音波検査。暗い部屋で丁寧に乳房やリンパ、首周りを検査する。私は珍しく画面を見る気になった。白い部分があると…

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「前祝いの満月」

満月と言っていい。黄色がかったまん丸い月が出ている。 中秋の名月は明日らしいが、一日早くお目にかかれた。その名に相応しい月はもっと冴え渡っているが、寧ろこの曖昧さがいい。 覚えていたいと思った。私にだって辛い事や苦しい事、心配な事はある。だけど日記に書くのは嬉しかった事だけ。 6歳の孫から来た初めての葉書。文字は天真爛漫に踊っている。その返事を今になって書いた。直ぐに投函しない…

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「『風が吹けば桶屋が儲かる』式に癌が見つかった」

(今回は以前にも書いた事のある私が乳癌を見つけたきっかけなので、ご存知の方はスルーして下さい。) 爺様の目に力がある。今までのようなボヤケた感じが消えている。 トイレに立った。誰か職員が介助に入らないといけないが、正直嫌だった。 爺様が怒るからだ。しかし、健康な人間ならトイレに他人が入って来たら嫌がるのは当然だ。 「すみません、ちょっと入っていいですか?」 「何でだよ!…

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「メンテナンスが必要なのはバイクや自転車だけじゃない」

そう、肝心かなめの自分の体。 先日気になっていた胸のしこりを診てもらい異状なしと言われていたが、一気に不安になる事があった。 上高地に行く時に泊まったホテルの大浴場。鏡に写った上半身が目に入った。あのしこりは外側の色が変わっているのだ。 この前病院に行った時は自分の目では見ていない。手で触るのと目で見るのとでは雲泥の差、震え上がった。癌が精神的な病と言われるのはこれ、不安との闘…

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「杏」

杏を探しにスーパーに行った。ない。ここ千葉県のスーパーで意識して探した事はなかったが、やはりない。 上高地の話をもう一つ書いておこう。上高地を出て直ぐに「道の駅」に立ち寄った。確か「風穴の里」。 それは4パックで段ボール箱に入っていた。 「バラ売りはしないんですか?」 「1パックでその値段です」 パックには10数個入り、880円とある。 黄色に近いオレンジ色の実。杏(あん…

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「甘えたっていい」

乳房のしこりが気になっている事を子供達には言わなかった。病院受診の前日、仕事中に軽い世間話のように信頼している同僚に話しただけだ。 病院に着いてから、息子にはこういう理由で病院に来ているとラインした。再発転移していた場合、いきなりそれを告げる事になってしまう。 甘えたっていい。もう息子は十分信頼出来る大人だ、喜びだけでなく不安や苦しさを話していい。 幸い異状なしだった。真っ先に…

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「異状なし」

「お風呂のお水取り替えてる?」 「替えてるよ」 隣に座ったご婦人は具合悪そうだが、静かな待合室でずっとその隣の男性と話している。 暫く沈黙したと思ったら、突然お風呂のお水の話。二人が24時間一緒にいたらお互いには分かる事なのだろう。 ご主人らしき男性は席を立った。売店に行くらしい。直ぐに帰って来た。何も持っていない。 またもや甘えた話し方をしている。 「あったかいのが…

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「見て見ぬふり」

5月は特別な月。私の誕生日と「母の日」がある。 それどころではなくなった。ずっと鼻水と喉の違和感が続いていたが、発熱した。 朝寒い雨が降っていた。濡れたのがよくなかったのだろう。 そのうえアレがある。 乳房に手で触れるとはっきり分かるしこりがあったが、以前調べたら問題ないものだった。 それが大きくなっている。 どうする。病院に行くしかないと分かっているが面倒だ…

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「嫌な場所」

「すみません、水を飲んでいいですか?」 「いいですよ」 男性の検査技師はそう言うと紙コップを取りに行った。 年に一度の大腸検査の日。去年大腸内視鏡検査があまりにも痛かったのでその事を内科医に伝えると、来年はMR検査にしましょうとなった。(『もう二度とやらない』https://smcb.jp/diaries/8759163) 「放射線受付」はよく行くが、MR検査は数年振り。 …

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「終わったんだ」

「異状なしですね」 主治医は画面を見ながら当たり前のように言う。私は終わったんだなと思った。 息子と山に行くと大抵テーマソングが見つかる。那須岳では美空ひばりの『愛燦燦』、土砂降りの谷川岳トレッキングはToshiの『紅』。私が疲れた頃に息子がかける応援歌だ。 今回は高橋優の『明日はきっといい日になる』。今までだって何度も聞いているお馴染みの曲だ。ただサビ以外の歌詞を知りたいと思…

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「あと一年」

内科医はPCの画面を見ながら言った、 「変わりないですね」 細かく分割された沢山の写真の中から一枚を示した。嬉しい、癌じゃない。しかし、大きい。管の中に飛び出しているピンクの塊。 そこに物差しのような目盛の付いた物がある。「去年はMRIでしたから、2年前のと比べましょう。変わりません。」 「先生、質問していいですか。一度出来たものは、小さくはならないんですか?」 「なりませんね」 「一度…

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「もう二度とやらない」

楽しみにしていた休み。また雨だ。おまけに寒い。炬燵に入りエアコンを暖房にした。(先日娘宅では冷房を入れた) 雨に当たりながら花の舞台を模様替え。冬の間地面に置いていた鉢を移動すると、脇にオドリコソウが咲いているではないか。毎年この花がいつ頃咲くか定かでないが、にしても早い気がする。 ナルゴユリかアマドコロかはっきりしない花も咲き出している。 毎年出て来る宿根草はどれも繁殖力が強い。 見つ…

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「癌が再発しない訳」

脇から覗き込む。長い睫毛の下にぷっくり丸い瞳が見える。一歳の孫は私に抱っこされ、一心にテレビを見ている。 昨夜、5時半まで仕事した後、一度帰宅し黒豆と息子が買って来た軟骨と鮪を持った。 街には煌煌と灯りがともり、飲み屋の前には人が溢れている。既に年末年始の休みに入っているのだ。 空気は冷たいが重ね着したダウンのお陰でそれ程寒くはない。 私の癌が再発しないのは、人のために生きているからでは…

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「病院に行った」

年に一度の検査を忘れないよう冷蔵庫に予約表を貼っていたのだが、とにかく検査数が多くて一番早い検査だけ頭に入れていた。 ところが病院で診察券を差し込んで、印刷されたものを見て驚いた。既に最初の検査の時間を過ぎている。その検査だけ時間が記入されていなかったのだ。 慌てて放射線科に向かった。会計を待つ広いロビーは人で埋まっている。最初にマンモグラフィをやって来るように言われる。 直ぐに名前を呼ば…

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「葬儀」

ヒガンバナはあっという間に終わる。今度は赤い実が空に向かって色付いて行く。同時にどの植物より先に紅葉して行く。ハナミズキだ。 朝7時過ぎにウォーキングに出た。「涼しい」から「寒い」になっている。周回コースを速歩で歩く。 縦にも横にも体格のいい男性が幼子をひょいと抱えて歩いて来た。その後ろを歩くのはリュックを背負ったお兄ちゃん。4歳になったばかりの孫と同じくらいだ。 お父さんが保育園に連れて…

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「がん10年生存率59.4%」

「国立がん研究センターは27日、2008年にがんと診断された人の10年後の生存率が59.4%だったと発表した。」 東京新聞4月27日夕刊一面だ。「生存率」って、簡単に言うよね。ま、ピクリとも動揺などしないけど。他人事のようだ。 「全国で専門的ながん治療を提供する病院の患者約23万8000人の大規模データを初めて使って10年生存率を算出した。」 「専門的ながん治療を提供する病院」って?例えば…

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「池江璃花子の事を書かずにいられない」

だって彼女は金メダルに近い世界一のスイマーから、ある日突然自分の命さえ危ういと言う地獄に突き落とされたのだ。 そんな彼女が次のオリンピックを目指すだけでも凄いのに、今回の東京オリンピックに出る権利を得たのだ。 誰だってあの泣きながらのインタビューを見たら涙が出る。こんな事が現実に起きる事に驚いたが、本人が一番驚いている事が伝わって来る。    ある日突然あなたは病気ですよ、それも死ぬかもしれ…

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「嫌なオンナ」

「1、2、3、4、5、6、~ 23。また同じだ。」 ビーっと鳴る機械音。放射線とは全く違う。あちらは得体の知れなさで恐怖を掻き立てられたが、こちらは一回に照射する時間が長い上に長時間だ。 「息を吸って…〜、吐いて〜、止めて」 長い。みんなこれを我慢しているのか。 「楽にして下さい」 胸一杯息を吸う。目を開ける。天井が上下に動くだけで、まだ終わりではないらしい。 MR検査室は地下一階。6年前…

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「ない!」

やってしまった。いつからだろう。だいたい何度脱いだ?最初は腕だけだが脱いだ。 戻れ。逆にたどれ。 先ずはコンビニ。週刊誌を買った。ある訳ないが、全部たどれ。 次は中央検査室だ。超音波をやった。小さな声で受付嬢に聞くと、直ぐに立ち上がり、カーテンが閉まっている場所に行く。 「どの部屋でしたか?」 「ここです。」 さっき横になっていたカーテンを指差す。両側の胸を検査している間に時間が長く感じ…