さんが書いた連載癌の日記一覧

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「葬儀」

ヒガンバナはあっという間に終わる。今度は赤い実が空に向かって色付いて行く。同時にどの植物より先に紅葉して行く。ハナミズキだ。 朝7時過ぎにウォーキングに出た。「涼しい」から「寒い」になっている。周回コースを速歩で歩く。 縦にも横にも体格のいい男性が幼子をひょいと抱えて歩いて来た。その後ろを歩くのはリュックを背負ったお兄ちゃん。4歳になったばかりの孫と同じくらいだ。 お父さんが保育園に連れて…

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「がん10年生存率59.4%」

「国立がん研究センターは27日、2008年にがんと診断された人の10年後の生存率が59.4%だったと発表した。」 東京新聞4月27日夕刊一面だ。「生存率」って、簡単に言うよね。ま、ピクリとも動揺などしないけど。他人事のようだ。 「全国で専門的ながん治療を提供する病院の患者約23万8000人の大規模データを初めて使って10年生存率を算出した。」 「専門的ながん治療を提供する病院」って?例えば…

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「池江璃花子の事を書かずにいられない」

だって彼女は金メダルに近い世界一のスイマーから、ある日突然自分の命さえ危ういと言う地獄に突き落とされたのだ。 そんな彼女が次のオリンピックを目指すだけでも凄いのに、今回の東京オリンピックに出る権利を得たのだ。 誰だってあの泣きながらのインタビューを見たら涙が出る。こんな事が現実に起きる事に驚いたが、本人が一番驚いている事が伝わって来る。    ある日突然あなたは病気ですよ、それも死ぬかもしれ…

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「嫌なオンナ」

「1、2、3、4、5、6、~ 23。また同じだ。」 ビーっと鳴る機械音。放射線とは全く違う。あちらは得体の知れなさで恐怖を掻き立てられたが、こちらは一回に照射する時間が長い上に長時間だ。 「息を吸って…〜、吐いて〜、止めて」 長い。みんなこれを我慢しているのか。 「楽にして下さい」 胸一杯息を吸う。目を開ける。天井が上下に動くだけで、まだ終わりではないらしい。 MR検査室は地下一階。6年前…

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「ない!」

やってしまった。いつからだろう。だいたい何度脱いだ?最初は腕だけだが脱いだ。 戻れ。逆にたどれ。 先ずはコンビニ。週刊誌を買った。ある訳ないが、全部たどれ。 次は中央検査室だ。超音波をやった。小さな声で受付嬢に聞くと、直ぐに立ち上がり、カーテンが閉まっている場所に行く。 「どの部屋でしたか?」 「ここです。」 さっき横になっていたカーテンを指差す。両側の胸を検査している間に時間が長く感じ…

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「選択肢がなくなる」

スイカを切って待っていてくれる。あと2周しよう。 1周800㍍の市民の森を、200㍍だけ走りあとは早足で歩く。林の外は暑いが、中は日が差さず風も吹いている。 蝉が煩い程鳴く。去年までどうだったか記憶はないが、今年の蝉は大発生と言いたいくらいだ。 大発生という言葉はスズメバチを連想し、刺された場所に来ると自然にスピードを上げる。今度刺されたら危ない。二度目は命に関わる。 一度目はオレンジ色…

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「『がん』も『うつ』も体温が低い」52.6

再開した図書館の新着コーナーで借りた一冊だ。出版は2020年4月30日。 「癌」は肉体の、「うつ」は精神のトップスター。題名を見ただけで借りる気になった。 私は体温が低い。癌細胞は低体温を好む。生姜がいいとか、根菜類がいいらしいという知識はあるが、真剣に体温を上げようとしたことはなかった。 今測ったら、35.3度。冬用靴下とレッグウォーマーを付けている。長袖も今から羽織るつもりだ。 著者…

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「当たり前の意味」

前回の日記は、人はいかにして老いていくかの事例にして下さい(笑)。写真を見れば一発で分かってもらえると思うが、私が中蓋だと思ってねじって外そうとしたことが間違い。 あれはパカンと上に持ち上げて開ける。その下に缶ビールのプルトップっていうの?あれのプラスチック製のがあって、指を引っ掛けて切り取る仕組み。 指の力の問題ではない。脳味噌の問題だった。 外蓋を取り、中蓋を外してその下にアルミ製の蓋…

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「カツラ取ったんですよね」:癌サバイバーの共通点

「クックドゥ回鍋肉」がこんな処にあるではないか。昨日私は自信たっぷりに息子に答えていた。 「回鍋肉じゃなかったの?スーパーで買ってなかったっけ?」 「買おうと思ったけど、買わなかったの。」 それ以上は言わない息子。 キャベツの味噌何とかを、箱の説明通りに作ったのが結構美味しかった。私は。回鍋肉を買ったなんて微塵も思っていない。 事態は加速度的に進む。 午後美容院に行った。美容師はよく喋…

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「一気に元に戻ってない?」

「⚪⚪先生ですか?」 隣の女性が話し掛けてきた。正直、嫌だなと思った。マスクはしているが、近い。 順番が来て彼女は診察室に消えた。私は席を移動した。 病院は玄関におでこで体温を測るナースがいただけで、広い待合室には大勢が座っていた。テレビで見るような一人分空けておく目印もない。 かかりつけ医も中堅の病院もガラガラだったのは4月末。 この市立病院は他の病院と違い、基本的には他の病院からの…

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「今日は何着て行こう」

今日は以前から決まっていた、乳癌手術した病院に行く日だ。検査もあるから脱ぎ着の楽なのがいいが、だらしないのも気分が落ちる。 緊急事態宣言が解除されても、病院はまだまだコロナ感染のリスクは高いことを考えると「闘う姿勢」も出したい(笑)。 孫宅に行くようになり、若い人の物を増やさないシンプルな暮らしを知った。私は食器が好きで使わずに飾っているだけのカップがある。それを使うようになった。これが意外…

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「素直には喜べないが、怖がってもいない」

「かなりばらつきはありますが、寒くなった日もありますからね」 私が渡した血圧ノートを見て、医師は言う。120台から150台と安定しなかったので気になっていたが、許容範囲なのか。 「同じ薬を出しましょう。二カ月分」 二カ月分も。前回は一番弱い降圧剤を試すので、二週間分処方すると言われ、薬を始めるに当たり血液検査も尿検査もやっていたが、全く異状なしとの説明を受けた。 診察室を出た。待合室には…

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「高血圧を治そうとしたら」

私は時々ああ今血圧が高い、と感じるときがある。頭の中の圧が高まっている感じとでも言おうか。 数年前、私は職場専属の医師の下で例年通り健康診断を受けた。血圧が高いと言われ、降圧剤が処方された。 飲み始めて暫くし、腕に痒みが出た。私はそれまで医師に対して疑問など持ったことのない善良なオバンだった。 季節もちょうど初夏に入ったところで、自分の汗に負けたのだろうと思った。私は首回りが初夏には痒く…

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「仕方ない」

予約は10時だが、いつも待たされるから病院の日は一日仕事。 震え上がる寒さだ。立春を過ぎて本格的な冬が来た。 たんぼ道を通って行くと、爺様が立っていてこの先工事中で行けないという。仕方ない。 ウチの裏の道も工事中で、昨日は家が振動するほどの騒音だった。 舗装されていないでこぼこ道を、穴を避けながら行く。先を見た。風で土埃が舞い上がっている。あの中を行くのか。仕方ない。 病院はいつもの外…

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「魚の目が怖くて」

「ごめんね、この前いただいた太刀魚ね、私、あの目が怖くて切れなかったの。だから、近所の人に上げるって言ったら、切ってくれてね。半分こしたのよ。塩焼きにしたら、凄く美味しかった。」 私は一気にまくしたてる。なんせ嬉しくて仕方ない。 「この前落ち込んでるって話したでしょ。私新潟のど田舎で生まれ育ったから、1匹丸々の魚を切るなんて平気だと思ってたの。 ところが、太刀魚見たらもう怖くてね、やっぱり…

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『クリスマスプレゼントが必要なのは』

①リビングの窓を開けた。霧だ。かなり濃い。ラッキー! 直ぐに着替える。水曜日は空き缶空き瓶ペットボトルの日。昨日から玄関に出してある。 ゴミステーションにはご近所さんがいた。空き缶の袋を開けると『美女と野獣』の大きめの空き缶が二つ。 聞けば彼女が捨てたものではないという。 拾い上げると中は綺麗に洗ってある。 「いいんじゃない?もらって。」 小さめの植木鉢を入れて室内に置いてもいい。 …

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「やっと分かった」

「健康な乳房を切り取る手術に保険適用」というニュースがずっと引っかかっていた訳が分かった。 いくら貴女は乳癌になる可能性が大きいですよ、と言われても、はいどうぞと大事な大事な体の一部を切除する女性などいないだろう。 悩んで悩んで、やっと辿り着く結論だ。 何故そんな手術をする?死ぬより、或いは死の恐怖と闘うよりましだからだ。 つまり乳癌はそれだけ怖い病気なんですよ、と言っているのだ。私が普…

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「健康な乳房を切り取る手術に保険適用って」

マリコサンの入浴介助だ。彼女は自立しているから、転ばないよう見守り、洗う手順を手助けするだけでいい。 彼女が浴槽に入る時、体の前面が眼に飛び込んで来た。今まで何度も入浴介助しているが、私は見ようとしなかった。 片方の胸がない。 新聞(東京新聞12月13日夕刊)にはこうある。 「遺伝性の乳癌や卵巣癌を発症した患者が、新たな癌を防ぐために健康な状態の乳房などを予防的に切除する手術について、…

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「生き急ぐ」

「今日仕事?」 「休みなの。」 「珍しいね。会える?」 「ありがとう。でも、ごめん、疲れてて。今日は一日休むと決めてるの。」 友人からの電話だ。仕事以外の理由でこうもはっきり断ったのは初めてだ。 朝目覚めた時、何となく体調が悪い。耳の奥、脳内で圧がかかっているような。心臓も速い気がする、まるで悲鳴を挙げているよう。 体調には食べる物が一番影響すると思って来たから、まずは「出羽桜」を止め…

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「元気を分けて」

急に涼しくなったが、このまま秋に突入することはないと天気予報が告げていた。 朝新聞を取りに玄関を出ると秋の気配だった。 早番なら六時半に家を出るが、今日は8時に出れば間に合う日勤。新しいシューズを履いてみたい。 着替えて周回コースに向かう。暑いから、仕事だからと言い訳ばかりで今週走っていない。 早足で歩く。大抵何人か歩いているのに、誰一人いない。2周目は走った。歩くのと変わらない。 走…