「桜木紫乃」の日記一覧

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十七年間の逃亡生活

 桜木紫乃の「ヒロイン」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、渋谷駅での毒ガス散布事件に関わったため、無実であるにも関わらず十七年間の逃亡生活を続けた女性の姿を描いた作品である。  物語は四十歳になった岡本啓美が、勤め先の介護施設から男と暮らす部屋に戻って来た場面から始まる。彼女を待っていたのは刑事達であり、十七年間に及んだ…

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光の中で

 桜木紫乃/文、中川正子/写真のフォトストーリー「彼女たち」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。写真家の中川正子は岡山県在住で、美しい光を活かしたポートレートやランドスケープ写真が得意とされている。  本書は五十数ページの作品で、「ジョンとイチコ」「モネの一日」「夕暮れのケイ」の各章から成り、中川の二十枚の写真に、桜木が一、二ペ…

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北海道の馬の骨

 桜木紫乃の「妄想radio(レディオ)」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、著者の第二エッセイ集である。  本書は二部構成で、前半部は日本経済新聞紙夕刊に週一回、半年間連載されたエッセイ「ずれずれ草」である。収録された各篇はいずれも著者らしく、ユーモアとウィットに富んだものであるが、その裏に隠された人生観には中々深いも…

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最後の総仕上げ

 桜木紫乃の「孤蝶の城」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は「緋の河」の続編であり、ニューハーフタレントのカルーセル麻紀をモデルとして、性転換以降の彼女?の波瀾万丈の人生を描いた作品である。  昭和48年(1973年)春、三十歳になった秀男(カーニバル真子)は、意を決して海を渡る。銀座「エル」のパリ支店「パピヨン」で暫く働…

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老いることの切なさ

 桜木紫乃の「家族じまい」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、北海道の片田舎で老いを迎えた登美子とサトミの姉妹と、その周辺の人々の姿を描いた物語である。  第一章「智代」:北海道の江別市に住む五十歳の片野智代は、近所の美容院でパートをしている。二人の子供が巣立ったため、彼女は十歳年上の夫の啓介と二人暮らしになったのだが、一…

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重い十字架を背負った女

 桜木紫乃の「ブルースRed」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、貧しい生まれながら、釧路の歓楽街の顔役となった影山博人を主人公とした「ブルース」の続編で、義父の博人亡き後にフィクサーの地位を引き継いだ、ダークヒロインの影山莉菜の姿を描いたノワールの連作短編集である。  「最愛」:莉菜は、かつて博人の用心棒だった齋藤弥伊知…

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灯油ストーブが頼りの冬の生活

 桜木紫乃の「俺と師匠とブルーボーイとストリッパー」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、釧路のキャバレーで働く二十歳の若者と、三人のうらぶれた芸人達の、一冬の奇妙な同居生活を描いた物語である。  本書の舞台は、昭和五十年の暮れの北海道釧路市である。二十歳の名倉章介は、中学を卒業してから働き始め、十六歳からは大箱キャバレー「…

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北の大地に生きる

 桜木紫乃の「おばんでございます」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、著者の初エッセイ集である。なお、タイトルは北海道方言で、「今晩は」の丁寧な表現である。  本書は、著者が北海道新聞を初めとする各種媒体に寄稿したエッセイを編集したものである。分量的にはⅡ編の「ブンゴーへの道」と「帰ってきたブンゴーへの道」が多いのだが、前…

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著者別インデックス:国内(桜木紫乃)

1.氷平線 (2007.11) 2.風葬 (2008.10) 3.凍原 (2009.10)   https://smcb.jp/diaries/7322945 4.恋肌 (2009.12) 5.硝子の葦 (2010.09) 6.ラブレス (2011.08)   https://smcb.jp/diaries/4341492 7.ワン・モア (2011.11) 8.起終点駅(ターミナル) (201…

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日記112 家族じまい/桜木紫乃

 桜木紫乃著「家族じまい」(2020年6月集英社刊)読了。  まず集英社のサイトから紹介~『家族じまい』刊行記念 桜木紫乃さんインタビュー  「小説の仕事は、赦すことだと思うんです」  子育てに一区切りついた智代のもとに、突然かかってきた妹・乃理からの電話。  「ママがね、ぼけちゃったみたいなんだよ」  新しい商売に手を出しては借金を重ね、家族を振り回してきた横暴な父・猛夫と、そんな夫に苦労しな…

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北海道立湿原高校図書部

 桜木紫乃の「蛇行する月」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、北海道釧路市の道立湿原高校で図書部に所属していた女性達の1984年から2009年までの姿を描いた連作短編集である。なお、全てのエピソードに須賀順子が登場する。  「1984 清美」:戸田清美は高校を卒業して、割烹ホテルかぐらの営業社員になるが、安月給の上、仕事…

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女は一日にしてならず

 桜木紫乃の「緋の河」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、ニューハーフタレントのカルーセル麻紀をモデルとして、彼女?の波瀾万丈の前半生を描いたものである。  物語は、昭和24年の正月に始まる。北海道の釧路で昭和17年の秋に、昔気質な父親の平川時次郎と辛抱強い母親マツとの次男に生まれた秀男は、小学校入学を目前にしていた。秀男…

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彼女の頭には宝石が詰まっている

昨夜、久しぶりに入眠剤を飲まずに寝ようと思った。 最近飲まなければ寝られない日が続いていて薬物依存が気になっていたのだ。 と云う事で、寝られなければ夜通し本を読もうと決めて横になった。 007の最新刊『逆襲のトリガー』は007の生みの親、イアン・フレミングの亡くなった後を引き継いで彼が遺した構想を基にアンソニー・ホロビッツが書いたものだ。 この本を楽しく読み終え、次に手に取ったのが桜木紫乃…

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サイン会

少し前のことになるが、釧路出身の直木賞作家、桜木紫乃さんのサイン会へ出掛けた。 購入した「緋の河」とサイン予約券を持って30分程前に書店へ着き店内で待機。 いつもとは違う張りつめたような店内の空気。私の予約券番号は30番。 その予約券の裏に自分の名前を書くように云われたのは、その名前を桜木紫乃さんが著書へ書き写すためらしい。 「30番までの方は並んでください」と云われて列の最交尾じゃ無かった…

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看取りの天使

 桜木紫乃の「光まで5分」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書では、北海道から沖縄に流れ着き、身体を売って暮らす主人公の当て所なく流れ行く人生が描かれている。  北海道の東の果ての港町で生まれた主人公のツキヨは、札幌で少女時代を過ごすが、同居していた義父と性的行為を繰り返していた。義父は小児性愛者的なところがあり、小学校入学前…

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桜木紫乃さんの描く世界

直木賞作家で地元出身の桜木紫乃さんが書いたラブレスを読んだ。 冒頭から暗いシーンが続き、これは私向きでは無いかもと思いながら読み進むうちにどんどん引き込まれていった。 歌が好きでバスガイドを夢見ていた少女が貧しい家庭の事情でその夢を断たれ、歌を捨てきれずに飛び込んだ演芸一座と行動を共にし、一座が解散した後の放浪。 子供を産み、オトコに裏切られ故郷にも背中を向けられた女がミシンを武器に懸命に…

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二人で暮らす幸せ

 桜木紫乃の「ふたりぐらし」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、生活力のない元映写技師の夫の信好と彼を支える看護師の妻の紗弓の日常生活と、それぞれの人生に対する思いを描いた10編からなる連作短編集である。  「こおろぎ」:札幌市に住む信好は元映写技師であるが、映写技師としての仕事はほとんどなく、売れない映画の脚本や評論を毎…

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全員嘘つきの物語

 桜木紫乃の「砂上」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書は、当て所なく小説を書き続けるバツイチの中年女性と、彼女の前に突然現れた冷徹な女性編集者の交流を描いたものである。  柊令央は、北海道江別市に住むバツイチの中年女性である。彼女はスナックに勤めていた母親のミオが遺した古ぼけた木造一軒家に住み、三十七歳の時に別れた夫からの月…

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青い瞳の哀しさ

 桜木紫乃の「凍原―北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書では、釧路で起こった自動車のセールスマン殺害事件を追う女性刑事の活躍が描かれる。  本書で描かれる殺人事件の淵源は、1945年8月の樺太にある。第二次大戦終戦の直前に、南樺太にソ連軍が侵攻する。ソ連軍機の機銃掃射により、母と妹を一…

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人買いに売られた姉妹

 桜木紫乃の「氷の轍」を読了した。著者は直木賞作家で、女性の性愛をモチーフとした作品が多いため、「新官能派」と呼ばれている。本書では、釧路で起こった元タクシー運転手の老人殺害事件を追う女性刑事の活躍が描かれる。  本書の主人公の北海道警釧路方面本部刑事課強行犯係の大門真由は、警察官一家の娘であるが、警察官志望を明らかにした高校生の時に、彼女が養女であることを両親から告げられる。彼女は父親の史郎の…