「杉本苑子」の日記一覧

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蜃気楼船が沖行く像結ぶ

 石ころの浮き足立ちて別れ霜  檜紀代  桶底の仕舞ひ酸莖や別れ霜  中原道夫  早暁の東京発ちぬ別れ霜 稲畑汀子  別れ霜駅へと急ぐ女学生 大内幸子  別れ霜体内時計の螺子を巻く 寺田すず江  箒目の流れのままに別れ霜  能村研三  「別れ霜」という小説杉本苑子  アロマ  九体寺の味噌は甘かり別れ霜  長谷川かな女 花寂び  春潮のひか…

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杉本苑子 の 散華―紫式部の生涯〈上下〉

〈上巻〉★3.3 紫式部(小市)が7歳から27歳まで。  小市と姉の大市9歳、弟の薬師麿5歳の3人は父が播磨の国府の役人であったためその地で生まれた。母は既に亡くなっている。物語は7歳の小市が父に伴われ京極の古屋敷に帰ってきたところから始まる。曾祖父・藤原兼輔が建てたという屋敷は寝殿造りで母屋、北の対、東の対、西の対とある。屋敷には長兄(小市の伯父)の藤原為頼一家、次兄の為長一家、そして父である…

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杉本苑子 の 江戸芙蓉堂医館

★3.3 この作者こんな作品もあるのかと手にした1冊。7つの連作。日本橋宇田川町の次兄の屋敷内で医館・芙蓉堂を開く千鶴は23歳、父は奥医師筆頭の法印・半井元養である。 物語は奇態、珍妙な事件を千鶴のひらめきで解決していくが、千鶴の着想力が読みどころ。汚物処理の乞食のしくみ。相手取り違えの心中。腹の中で猫が鳴く。江戸はあやかり信心が大はやり。川開きの趣向が身投げに。やぶ医者祐庵の副業。年末取り立…

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杉本苑子の「穢土荘厳(えどしょうごん) 上下」。

★3.7 聖武天皇の時代を第3者の眼で描く長編。 《上巻》 上巻は長屋王の変から天然痘の流行前夜までを描く。長屋王の変は王家に仕える手代夏雄と大伴子虫(実在)の視点で、女医綾児と鈴鹿王の裏切りを絡めミステリー調に描いていく。 長屋王を除くことを認めた聖武の気鬱の病も、一族の怨念を恐れたことを起点とする。 持統・元明・元正の蘇我氏系女帝と藤原氏との確執の系譜を背景に据え、持統・不比等亡き後の…

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杉本苑子の「山河寂寥(せきりょう)―ある女官の生涯 (上下)」。

平安時代前半(100余年)の藤原北家の暗躍を描く。視点は女官で最高位(従1位)に上り詰めた藤原淑子(よしこ:838-906)で長良の娘。 《上巻》★3.5 上巻は人臣初の摂政となった藤原良房の権力闘争を「承和の変」「応天門の変」「文徳天皇の怪死」などを通してその死までを描く。 政敵に無実の罪を着せて失脚させるなど、非常に生々しい事件が続くが、淑子の一歩引いた描写が物語を面白くしている。 サ…