「谷津矢車」の日記一覧

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類いまれな軍略家

 谷津矢車の「ぼっけもん-最後の軍師 伊地知正治-」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、戊辰戦争で活躍し、「類いまれな軍略家」と称えられた薩摩の軍師伊地知正治大政奉還の半生を描いた歴史小説である。なお、本書では晩年に主人公が薩摩に帰った明治十五年のパートと、戊辰戦争から西南戦争までの戦いのパートが交互に描かれており、前者は完全なフィクションである。なお、タイトルの「ぼっけもん…

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大政奉還前夜の狂瀾

 谷津矢車の「ええじゃないか」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、大政奉還の前夜に、東海地方から京にかけて起こった、ええじゃないかの掛け声とともに踊り狂った乱痴気騒ぎの顛末を描いた時代小説である。  物語は慶応三年(1867年)夏の三河国で始まる。浜松宿の賭場で負けが込み、着物か長脇差を手放さざるを得ないところまで追い込まれた渡世人の晋八は、七十歳を過ぎたと思われる貧相な老…

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天才棋士の破天荒な人生

 谷津矢車の「宗歩の角行」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、江戸時代末期に活躍した天才棋士天野宗歩の生き方と、その死の謎を追った証言からなる、一種の伝記風時代小説である。なお本書は、裕福な商家の旦那風の謎の町人の聞き手が、宗歩と関りのあった二十人の人々にインタビューを行って宗歩の思い出を聞き出した後、自らの正体を語るという形式を取っている。  天野宗歩は文化13年(181…

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金色の牡丹の飾り櫛

 谷津矢車の「北斗の邦へ翔べ」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、元新選組副局長の土方歳三と、土方に滅ぼされた松前藩家中の少年春山伸輔の二人の出会いから箱館戦争を描いた歴史小説である。  物語は、幕末にカムチャッカ航路を開いた豪商高田屋嘉兵衛が、自分の子供を孕んだイテリメン族の女と別れる場面から始まる。嘉兵衛はその女に、生まれてくる子供が自分の子供であるとの証として、女に金色…

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谷津矢車 の 吉宗の星

★3.4 吉宗の都市伝説ともいえる将軍就任秘話、尾張宗春との確執秘話を扱う。 前半は兄のようにして育った唯一の家臣・星野伊織と師匠の鉄海和尚の暗躍により、兄、父親、次兄の死によって紀州藩の当主となる。事後に打ち明けられ、命を落とした伊織の言葉を正義として自ら将軍の座を目指す。 大奥と尾張継友をうまく丸め込んだ吉宗は8代将軍に。次の課題は幕政の改革と若手人材の採用。尾張宗春もその路線であったが…

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谷津矢車 の 刀と算盤 馬律流青春雙六

★3.2 馬律流の道場を構える紗六新右衛門は禄がわずか5石の小普請。弟子がわずか1人という人気のない馬律流は鼻捻棒を武器とする体術だが、経営が苦しい。 そこへ経営指南の看板を揚げる一瀬唯力が転がりこんできた。元は町人で御家人株を買った侍。最初の客は小売りの米屋。商売が小さく苦しいので、百本杭で鯉釣りの副業をやっている男。唯力は策を授けて商売を拡大させてやる。謝礼は商売がうまくいったら儲けの1割…

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長幼の順

 谷津矢車の「吉宗の星」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、江戸幕府第八代将軍となった徳川吉宗の生涯を描いた、少しノワール風味の歴史小説である。  物語は元禄10年(1697年)、紀州新之助(後の吉宗)が、紀州藩邸を訪れた第五代将軍徳川綱吉に御目見する場面から始まる。新之助は卑賎の出の母親から生まれたため、紀州徳川家では疎まれており、自らも八百屋の娘を母親に持つ綱吉は新之助に…

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花和尚と黒旋風

 谷津矢車の「小説西海屋騒動」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、二見書房から刊行されている「小説 古典落語」シリーズの一冊で、いずれも「水滸伝」を種本とした、初代談洲楼燕枝の「西海屋騒動」と三代目春風亭柳枝の「唐土模様倭粋子」を基に、それらのストーリを合わせて時代小説化したものである。  初代談洲楼燕枝は、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した噺家で、柳派の頭取であり、一…

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著者別インデックス:国内(谷津矢車)

1.洛中洛外画狂伝-狩野永徳- (2013.03)   https://smcb.jp/diaries/7663440 2.蔦屋-TSUTAYA JUZABURO- (2014.03) 3.唸る長刀 (2014.06) 4.てのひら (2014.11) 5.からくり同心 景 (2015.08) 6.曽呂利!-秀吉を手玉に取った男- (2015.08)   https://smcb.…

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浮世絵をつくった男

 谷津矢車の「絵ことば又兵衛」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、「奇想の絵師」の一人で「浮世絵の祖」とも言われる、岩佐又兵衛の生涯を描いた歴史小説である。  幼い又兵衛は母親のお葉とともに、泉州堺のとある寺で住み込みで働いていた。不思議なことに、その寺の住持が酷い吃の又兵衛を優遇するため、又兵衛は弟子達から嫌がらせを受けていたが、母親との暮らしは貧しいながらも幸せだった。そ…

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谷津矢車 の 絵ことば又兵衛

★3.4 信長に反旗を翻した荒木村重の子で絵師となった岩佐又兵衛の生涯。〈絵ことば〉とは絵巻物に添えられる物語の文章のことらしい。 有岡城の戦いで乳母・お葉の手により落とされ、その乳母を母と思い堺の寺で逼塞した。寺の障壁画を描く土佐派の絵に異常な興味を持つ又兵衛。 京に移り狩野派へ入門。そこで内膳と知り合った。お葉の不可思議な死は又兵衛にずっとついて回る。そして織田信雄の近習として仕えること…

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左馬助の湖水渡り

 谷津矢車の「桔梗の旗-明智光秀と光慶-」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、本能寺の変に至る明智光秀の後半生を、光秀の嫡男の明智十五郎光慶と、女婿の明智左馬助秀満の視点で描いた歴史小説である。  天正八年、十五朗は武芸があまり好きではなく、どちらかと言えば芸事を好む文弱な少年であった。十一歳になった十五郎は、通常よりは早い年齢ではあるが、父親の光秀の命により元服し、光慶と名…

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谷津矢車 の 桔梗の旗 明智光秀と光慶

★3.4 光秀の長男・光慶の眼で明智家を語る。 物語は光慶(幼名は十五郎)の11歳での元服、天正8年(1580年)から本能寺(天正10年6月)までを描く。 徹底した能力主義を貫く信長は、元服し明智家の継嗣と目される光慶になぜか会おうとしない。そして光秀も光慶が未だ若すぎると初陣に出さない。光慶の母は既に亡く、叔母の陸(母の実家・妻木家から)が信長の側室という設定。 山崎の敗戦後、坂本城に立て…

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無調の音楽

 谷津矢車の「廉太郎ノオト」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、明治の日本で天才を謳われながら、結核のために夭折した瀧廉太郎の短い青春を描いた物語である。  廉太郎は明治12年(1879年)8月24日、内務官僚の瀧吉弘の長男として誕生するが、瀧家は江戸時代に、豊後国日出藩の家老職を代々勤めた家柄であり、吉弘は跡継ぎの廉太郎に、その家柄に相応しい将来を期待していた。  廉太郎の…

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谷津矢車 の 廉太郎ノオト

★3.7 瀧廉太郎の23歳の生涯。 豊後日出藩(木下家)の家老家であった瀧家の長男として東京に生まれた廉太郎は姉を看取る。琴の好きな利恵は廉太郎に己の代わりに音楽をやってくれと言い残した。 官吏の父親の赴任地・竹田で初めてオルガンを見た廉太郎は音楽の世界にのめり込んでいく。東京の音楽学校に行きたいという廉太郎に、父・吉弘は「西洋に伍してゆかんと皆しておる時代に芸人になるつもりか」と。 教師に…

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錦絵新聞の先駆け

 谷津矢車の「奇説無惨絵条々」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、元浮世絵師で新聞の編集人である幾次郎(落合芳幾)が、狂言作者河竹黙阿弥のために、古本屋の清兵衛の紹介により、台本のネタとなる戯作を探すという設定の短編集である。なお、明示されていないが、本書の舞台設定は明治22年前後である。  「だらだら祭りの頃に」:日本橋浜町の塗椀、塗箸職人佐吉の娘おふさは、酒におぼれた父親…

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唯力舎に集う人々

 谷津矢車の「刀と算盤-馬律流青春雙六-」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、武術の馬律流を伝える紗六新右衛門と、御家人株を買って経営指南を生業とする一瀬唯力の、二人の若者を取り巻く人々を描いた青春時代小説の連作短編集である。  「米が売れない!」:両国の百本杭の近くの裏店で米屋を営む信介が、両国西河岸にある紗六家の屋敷の中間長屋に住む一瀬唯力を訪ねると、屋敷の主の紗六新右衛…

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唐獅子図屏風

 谷津矢車の「安土唐獅子画狂伝-狩野永徳-」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、天才絵師狩野永徳の半生を描いた著者のデビュー作「洛中洛外画狂伝-狩野永徳-」の続編である。  物語は、四十二歳になった狩野永徳が、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)の依頼により、織田信長の三回忌に飾る信長の肖像画を描く場面から始まる。永徳は信長と対峙した数々の場面を思い出していた。  大友宗麟の招きで下向し…

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武士になりたかった忍者

 谷津矢車の「しょったれ半蔵」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、伊賀忍者の総領として知られる服部半蔵正成の、アイデンティティを求めた苦悩の人生を描いたものである。  正成は高名な伊賀忍者服部半蔵保長の息子として生まれたため、子供の頃は周囲の武士の子供から蔑まれていた。成長した後、初仕事としてある人物の暗殺を命じられた正成は、遂に生家を出奔し、友人の渡辺守綱の家人になり、同じ…

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洛中洛外図屏風

 谷津矢車の「洛中洛外画狂伝-狩野永徳-」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、戦国末期から織豊期にかけて狩野派を率いた 天才絵師狩野永徳の半生と、絵に対する業を描いたものであり、著者のデビュー作である。  物語は、狩野家の若惣領の狩野源四郎(後の永徳)が、白黒の片身合わせの装束を着た織田信長に、京の風物を描いた六曲一双の屏風を献上する場面から始まる。源四郎は後に魔王と呼ばれる…