「書評」の日記一覧

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安齋徹、周藤亜矢子「女性のためのキャリアデザイン」

 「キャリアデザイン」について講義することを模索しており、参考書を物色する際に本書に行き当たった。いわゆる「キャリア教育」の典型的なパターンとは一線を画す内容になっていることが本書に着目した所以だ。よくある「キャリア教育」とは自己理解から出発して、職業理解、キャリアプランと進む。しかし、まだ発展途上で多感な若者の不確かな「自己」を前提としてキャリアプランを描くことには無理があるように思われる。ま…

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東畑開人「聞く技術 聞いてもらう技術」

 著者は心理カウンセラーでカウンセリングルームを運営している。本書は朝日新聞に連載された評論をベースにして、その解説を対談で行なったものから構成されているので、日常会話体の文体である。難しい専門用語も使われていないので、大変読みやすい。著者の主張は以下の通りである。人の話を聞くためには自分の中に余白が必要であり、自分に余裕がない時は人の話を聞くことができない。そういう時はまず、自分の話を人に聞い…

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宇多川元一「他者と働くー『わかりあえなさ』から始める組織論」

 著者は経営学者で、組織論を研究している。著者は若い頃に原体験を持っている。それが著者の問題意識に直結している。本書も経営学の理論や学説を下敷きにしているが、記述は極めて具体的だ。社内であれ社外であれ、仕事の場面でお互いに分かり合えないことが起きる。それはなぜか。例えば、社内の部署間で歩み寄れない状況が発生しているとしよう。それはそれぞれの部署の「ナラティブ」が異なるから生じていると説明される。…

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デロイトトーマツリスクアドバイザリー「リスクマネジメント 変化をとらえよ」

 著者はデロイトトーマツリスクアドバイザリーとなっており、執筆陣として101名もの名前が列挙されている。リスクマネジメントの体系的な解説書を期待して本書を読んだが、オーソドックスな定番本よりはコンサル色のプンプンする概念先行型の内容である。リスクを切り口にして、サプライチェーン、カーボンニュートラル、サイバーセキュリティ、人権デューデリジェンス、経済安全保障など今日的な経営課題を総なめにしている…

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仁科雅朋「心理的安全性がつくりだす組織の未来」

 心理的安全性はアメリカで提唱された概念である。この手の本はなぜ心理的安全性が必要になったのか、その背景と経緯を説明し、だから日本でも心理的安全性を導入しなければならない、導入するとこんなメリットがあるといった展開が多い。本書の特色は舶来品の紹介に終始するのではなく、日本社会のメンタリティを歴史的に考察していることだ。アメリカは新自由主義によって格差が拡大し、社会が分断されているが、元々は平等で…

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島田裕巳「性(セックス)と宗教」

 人間にとって、宗教と性は生きる上での根源的な問題。今日でこそ価値観が多様化し、宗教の果たす役割は以前に比べて少なくなったとは言え、世界で見れば何らかの宗教に属する人の方が多数派。人が生きる上で、直接的であれ間接的であれ宗教から何らかの指針を得ているケースは多いと思われる。性も人という種を存続させる上では絶対に必要なものだが、人間には発情期がないだけに性欲といかに付き合うかは難しい問題。 …

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児美川孝一郎「キャリア教育のウソ」

 本書は2013年にちくまプリマー新書として刊行されており、2018年に電子化にあたり改変を加えられて一般の新書扱いになっている。当時はリーマンショック後の就職氷河期の時代で、若者の就職難が社会問題になり、この世代の不安定な非正規雇用は現在も課題として残存している。当時の若者の就職難という社会問題を反映して、「キャリア教育」は文科省によって導入され強力に推進された。著者もキャリア教育を実施するこ…

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巽一郎「100年足腰」

 著者は膝関節専門の整形外科医。私も昨年の初夏頃から左膝が痛くなり、整形外科を受診してレントゲンを撮ったが特に異状なし。膝関節変形症の初期ではないか、膝周りの筋肉を鍛えなさいと言われ、ジムでも膝周りの筋肉を鍛えるトレーニングを行っているが改善は見られない。悪くなっている感じもなく痛みもさほどではないが、知らない間に悪化させたくはない。そんな時に本書を目にした。著者は膝関節の手術の名医として有名だ…

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林真理子「成熟スイッチ」

 著者は大学生の頃トロくて使えないバイト生だったそうで、一生リーダーの役割には就けないと思ったそうだ。ところが今日では女性として初めて日本文藝家協会の理事長になり、昨年には日本大学の理事長にも就任した。そこに到るまでには成熟に向けて小さな心がげをコツコツと積み重ねてきた道のりがあった。その小さな心がけが成熟スイッチだ。本書は著者が最も大事だと思う4つの成熟テーマと、その章と章の間に「章間」を設け…

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斎藤幸平『人新世の「資本論」』

 人新世とは、人間が地球環境にあまりに大きな影響を与えてしまったので、それまでの地質学的な年代と区別する必要があるとして提唱された概念である。地球の気候変動はすでに災害の激甚化という形で大きな被害を与えているが、このままでは人類の生存に深刻な影響を与えることが懸念され、国連でSDGsが採択されて大きな潮流になっていることは言うまでもない。ところが、著者はSDGsは大衆のアヘンであると刺激的な警告…

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碧海寿広「仏像と日本人」

 もともと寺院は仏像を安置するために建てられたという側面もあるそうだ。平安時代から仏像を巡礼する風習はあり、西国三十三観音霊場なども形成されている。しかし、巡礼の旅に出られたのはごく一部の高貴な人々や僧ぐらいで、庶民が巡礼をできるようになったのは江戸期以後のこと。善光寺参りやお伊勢参りは人々の娯楽という面もあり、江戸では出開帳も盛んに行われたそうだ。そんな状況が一変したのが明治政府の廃仏毀釈。奈…

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田中優介「その対応では会社が傾く」

 著者はいわゆる二世である。何の二世かというと、危機管理の専門家の二世である。著者の父は仕事で何度も危機に直面し、遂には自ら経験に基づき危機管理のコンサルタント会社を立ち上げた。著者はまだ30代半ばであるが、父の会社を引き継ぎ危機管理のコンサルタント会社の社長である。二世の流儀で、大学卒業後は一般企業で武者修行を行なった後に父の会社に入社している。若いから吸収も早いのであろう、本書にも豊富な事例…

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高橋昭男「仕事文の書き方」

 本書は25年前に発行されているので、その時代的制約を受けている。本書発行の1997年頃は既にPCは世に出ていたが、会社でも台数はそう多くなく、まだワープロが全盛時代。当時のPCやワープロのマニュアルは分かりにくく、PCソフトやワープロの解説本がよく売れていた。著者はそういった技術的文書を扱うテクニカルライターで、どうしたら正確で分かりやすい文章が書けるかを本書で解説している。仕事文の代表例の1…

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坂本貴志「本当の定年後 『小さな仕事』が日本社会を救う」

 著者は高齢者が定年後にどのように働いているかという実態は意外と知られていないという。多くの会社が採用している定年再雇用までは容易に想像が付く。しかし、その後も働き続けている人は多い。その人たちはどんな仕事に従事して、収入はどうなのか。定年再雇用の仕事は地味で収入も現役時代から大きく下がり、モチベーションを大きく低下させGDPを押し下げる結果になっているという新聞記事をたまに目にする。また、高齢…

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池井戸潤「オレたちバブル入行組」

 話は1988年、半沢直樹の銀行への就職から始まる。この頃はまだ銀行員というのは特別な存在で、銀行に就職すれば一生安泰と言われたそうだ。当時の銀行は護送船団方式と呼ばれる金融行政に保護され、銀行は潰れないという神話が生きていた。その後、バブルが崩壊し、銀行は多額の不良債権を抱え、都市銀行の北海道拓殖銀行が経営破綻。生き残りのため、多くの銀行が合併してリストラを断行。長引く低金利とフィンテックの台…

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松尾恒一「日本の民族宗教」

 現代では葬式仏教と揶揄される仏教と我々の関係は江戸時代に制度化されたものである。国民は全て檀家として檀那である寺に所属させられた。一種の戸籍管理制度である。国民統治の方法であった訳だが、なぜ仏教であったかと言えば、異国の宗教であるキリスト教を排斥するためであった。長崎と天草地方のキリシタン遺跡は有名であるが、当時は西日本方面に広く伝播し、近畿でも相当数の信者を抱えていた。それほど幕府のキリスト…

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藤沢周平「凶刃 用心棒日月抄」

 若き日に脱藩して江戸で貧しい用心棒稼業で過ごしたのも今は昔。青江又八郎も家族を抱え、今や役持ちとなり、すっかり中年となってお腹も出る始末。そんな又八郎に再び半年ほど江戸詰めの藩命が出た。しかも表向きの仕事だけでなく、裏向きの仕事も託された。江戸嗅足組の解散指示を伝えるものだった。江戸嗅足組の頭はかつて交情を交わした佐知である。佐知と再会し、束の間の逢瀬を交わしながらも、又八郎自身も斬りかかられ…

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亀井利明「危機管理とリスクマネジメント」

 本書は平成9年に初版が発行されており、26年前に出版されている。当時のリスクマネジメントはリスクを保険でいかに転嫁するか、いかに倒産を回避するかが主な論点だったようだ。ある会合でリスクマネジメントの取組み事例を発表することになり、リスクマネジメントを体系的に論じている本にも目を通そうと思って、本書を読んだ。現在のリスクマネジメントは内部統制活動の一部に組み込まれており、内部統制やコンプライアン…

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D・カーネギー「話し方入門 文庫版」

 本書は書名に「入門」とあるが、かなり本格的なスピーチトレーニング方法論である。それがため、安直なハウツーものとは一線を画し、ロングセラーとなっている所以であろう。何しろ、のっけからスピーチでの自信を養うには一にも二にも練習とか、話そうとする内容を知り尽くすとか超正統的な正論が展開される。やはり何事も覚悟を持って臨まなければ成就することはできないのだ。覚悟が決まっているのなら、著者はかなり丁寧に…