早咲桜吟遊

寒緋桜(ウクライナを思う)

たヽかひに果てにし子ゆゑ身に沁みてことしの桜あわれ散りゆく(釈超空)

歌人としては釈超空、民俗学者、小説家としてはとしては折口信夫。ともに著名である。
當麻寺の中将姫伝説から非業の死を遂げた大津皇子の亡霊とまみえ、その姿を蓮糸で曼荼羅に織り上げた姫は、さまよう魂を鎮め、自らも浄土へといざなわれる「死者の書」を読んだぐらいだが、柳田国男に師事し、全国の民俗伝承から「折口学」と呼ばれ民俗学の基礎を築いた。奈良にはたびたび出かけ、神道への研究も深い。面白く読んだ大和岩雄の「天皇と遊女」にはたびたび折口の説が引用されている。
「たヽかひに果てにし子」は折口の養子(旧姓藤井)春洋が第2次大戦中、硫黄島で戦死した報を受けての作。折口は同性愛者だった。春洋は弟子であり愛人でもあったのだから悲報はいかばかりであったろうか。
チェーホフの「桜の園」 ロシアにもウクライナにも桜はもうしばらくすれば咲くだろう。
第1幕「夜明け、ほどなく日の昇る時刻。もう五月で、桜の花が咲いているが、庭は寒い。明けがたの冷気である」
ウクライナ侵攻のロシア。きっと戦争で亡くなったロシア兵士の親、恋人は折口の思いと共に見上げる桜は緋寒桜に思える。

撮影 川越・中院

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