紅葉六態(柏・観音寺)

地獄変

紅葉焚く絵巻の中の地獄変(有馬朗人)

「あの煙に咽んで仰向けた顏の白さ、焔を掃つてふり亂れた髮の長さ、それから又見る間に火と變つて行く、櫻の唐衣の美しさ、――何と云ふ慘たらしい景色でございましたらう。殊に夜風が一下しして、煙が向うへ靡いた時、赤い上に金粉を撒いたやうな、焔の中から浮き上つて、髮を口に噛みながら、縛の鎖も切れるばかり身悶えをした有樣は、地獄の業苦を目のあたりへ寫し出したかと疑はれて、私始め強力の侍までおのづと身の毛がよだちました。」
芥川龍之介の傑作(だと私は確信している)、宇治拾遺物語の1編を基にした「地獄変」の中の娘が父親の前で焼き殺される場面。
有馬朗人だけでなく、火のように燃える紅葉を仰ぐとこの場面を思い浮かべた人も少なくないのではなかろうか。私もその一人なのだ。

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