ドスンと重量感のある音がしたので、鏡の中を探した。 「ママが転びましたよ」 私は男性美容師を呼ぶ。ママは私にコーヒーを出そうと、コーヒーメーカーの前に行き、椅子に座ろうとしたらしい。 大丈夫、こんな事は初めてだと言っているが、私は客だ、不安でしかない。 髪を洗った後にカットするのかと思ったが、乾かした後ブローを始めたのでこちらから「カットは？」と言った。分かれ目も左右逆になっている。 …

道の左端に自転車がある。爺様が地面に腰を下ろしている。舗道は一段と高くなっていて、そこに腰を下ろしているのだ。 前を自転車が走っていた。停まった。爺様に声を掛けている。私は二人を追い越してバイクを停めた。 3~40代に見える男性が爺様の右手を引っ張り立ち上がらせようとした。 「待って下さい。一緒にやります。頭は痛くないですか？ぼーっとしていませんか？」　 受け答えははっきりしている。 「…

雨戸を開けた。窓の外はぼんやりと見える程度で、とても朝とは言えない。 普段は台所の狭い範囲を小さな小さな暖房器具で温め、立ったままか床に広げた新聞読みながら玄米と野菜を食べる。リビングでちゃんと座って食べたくなった。まだ朝の６時。着替えて化粧する時間は十分ある。座ると窓の外が見たくなった。 灯りを消した。東の空に強い光がある。明けの明星だ。確か金星。 段々外が明るくなる。椿やら寄植えやらが…

「3度目でね」 はっ？意味が分からなかった。 「今の母ちゃんで3人目」 男性は80代だというが、頬はつやつや張りがありとてもその年代には見えない。 私から声を掛けたのだった。何度か見かけた事のある男性は、公園のゴミを拾っていた。 「ありがとうございます。よく孫と遊びに来るんです」 ひょろっと背の高い男性は、ニコニコとよく喋った。 「母ちゃんがさ、半径800メートル以内の場所にウチ探してさ…

「今から出る」 「風が強いから気を付けて」 更衣室から娘にラインした。レッグウォーマーも裏起毛の風を通さないパンツも穿き、ダウンジャケットを２枚着る。鏡の中には雪だるま。 一階に降りた時ゴーゴーと風の音が聞こえてからは、何度も窓の外を見た。大きな木も竹藪も風に揺れている。 一度帰宅してバス電車となると倍の時間がかかるし、コロナがある。駄目だ。お腹にホッカイロまで貼った。 一番危険なのは○…

よく見ると細かい白い物が舞っている。 「イヤそうに降ってますよ」 「直ぐに止みそうね」 徐々に白い物が増えて行った。 「粉雪が一番積もるんですよね」 雪国育ちだ。一片が大きい「牡丹雪」は積もらないが、粉のように細かい雪は積もる。 昼休みを終えて出て来ると、外はうっすら白くなっている。 「綺麗ですねぇ。あの木なんてまるでクリスマスツリーですよ」 フロアーから見える外の景色は、雪が一番綺麗に…

明るくなって目覚めた。何時だろう。８時過ぎだ。昨夜は日付が変わるまでテレビを見ていた。 リビングの雨戸を開ける。菖蒲の植わっているプラスチックの池が凍っている。指で突いた。ピクリとも動かない。こんな事今まであったか。 クシャミが立て続けに３回出た。まるで花粉症のようだ。寒さへのごく普通の反応だと言い聞かせる。 朝のうちに買い物だ。お節料理は作らないと決めたはずが、同僚が黒豆を煮たと聞き作り…

５時半過ぎに会社を出た。辺りは暗いが、空は冴えざえと澄み渡っている。その中に異様に明るく揺らぎのない光を放つ星がある。 西の低い空にあるのは金星だ。その、左手上方にあるのは木星か土星だろう。そして南東の空には半月よりかなり膨らんだ妊婦のような月。あの星々の間をゆっくり動いていくのだ。深夜に見た月は右手に２つの星を付き従えていた。 一昨日の朝、駅前を通った。半ば葉が落ちた街路樹に違和感は感じな…

左側が少し欠けている。周りの色に同化してうっすらと空に浮かんでいる。 ５時半に会社を出たら、月が見えた。随分日が短くなったものだ。 買い物をして帰宅したら、東の空にもっとはっきり見えた。月自体が発光しているようだ。 洗濯物を干す時、窓を開けた。すっかり暗くなり、まさに煌々と照らしている。 ９月の満月と言えば中秋の名月だ。スマホ様に聞いた。今日はまだ満月ではない。21日。因みに「中秋の名月…

『日本百名山スペシャル　谷川岳　秋を満喫女子登山』を見ている。二度目だ。 ロープウェイは使わない。山小屋で一泊し、「オキの耳」までいく、山頂からは、新潟に連なる山々が見えている。 私は朝の忙しい時間に否応なく視界に入って来るもの以外は、ニュースやワイドショーの類は見ない。コロナコロナで息苦しくなるだけだ。 番組を録画して見る。 女優南沢奈央(大河ドラマ『軍師官兵衛』の初恋の人)が、始め…

「まだ日本でしか出来ないがんの放射線療法『ホウ素中性子捕捉療法』（BNCT）が昨年6月に頭頸部がん（脳と目以外の首から上のがん）に保険適用され、東北と関西の二施設で治療が始まって一年が経過した。非常に高い効果を上げている」 二施設！一つは福島県郡山市の南東北BNCT研究センター。もう一つは大阪医大。 「これまで77人を治療した南東北BNCT研究センターの高井良尋センター長は『患者は全て再発、…

風が止んだ。リビングに入れていた薔薇を外に出したが、果たして葉の周りがチリチリと焼けたようになったのは回復するだろうか。 風は植物には大敵。台風が去った後、葉が枯れる事がある。千葉県は海に近いせいか塩分を含んだ風になるらしい。 オリンピック明けの朝、ワールドニュースをつけた（オリンピック期間は放送がなかった）。ヨーロッパの放送局は帰国した選手達を歓迎する画面の後、地球温暖化に警告を発してい…

「そこに行くなら焼き肉だよ」 私が市内に新規開店したスーパーに連れていけと言うと息子が言った。 コロナ自粛を厳しく守っていた去年、非国民と言われるよねとビクビクして入った焼き肉店は別世界だった。 ほぼ満席状態で、店側もそんなに混雑するとは思っていなかったようで店内を忙しく行き交う店員は二人くらいでてんてこ舞い。 飲食店は軒並み「テイクアウトできます」と看板を出してはいるものの、店内に人影は…

長袖長ズボン、首にはタオル、手は軍手。家の裏側が草に占拠されているのが気になっていた。やるならこんな日だ。 朝から故郷新潟は38度になると煽り立てていた。ここ千葉県も十分に暑く、私は買い物に行くのに、アロハシャツにノーブラにしたかった。他人の迷惑考え、それはやめたが、半ズボンにした。涼しい。 天麩羅だ。カボチャとナスを籠に入れる。ピーマンはプランターにある。 汗を拭き拭き天麩羅を揚げる婆…

九時に家を出た。空は晴れていた。日差しが強い。長袖と手袋、首には綿のスカーフを巻いた。 信号で停まった。ジリジリと太陽が照り付ける。手袋を取った。手のシミは何とかなる。婆様たちの手は白い。 走る人が来た。厳重なマスクをしている。大丈夫なのか。今度は自転車。流石にマスクはしていない。またきた。マスクなし。 走る人も自転車も今までで一番多いが、両方にマスクなしが増えている。 長袖を脱ぎたいが…

田圃道に来るとどうしても「鳥おばさん」になる。キジだけでも珍しいのに、白いキジを見たのたから。https://smcb.jp/diaries/8543974 白い物があるともしやと目を凝らす。ビニール袋だったり、田圃に水を引き入れる場所だったりする。 沢山いたシラサギもいない。何処か違う場所に移動したのだろう。 イネの生長にはいつも驚かされる。ついこの間田植えをしたと思ったら、かなり伸びて…

先日、息子が見ていたテレビ画面に驚いた。陸上競技をしている。客席には前の方だけだが、席を空けずに観客がいる。 有名人が揃っていた。ついこの間10秒を切ったベテラン山県亮太、ずっと前に10秒を切っている細い目をした桐生も、サニブラウンも、前髪が長い多田修平もいる。 一発で走り出す時の緊張感。中学生の頃、陸上部でもないのに選手の一人として駆り出された。山間の小さな中学校は、陸上部員だけでは群大会…

昨日は幕張の免許センターで新しい免許証が即日交付され、立派に一仕事した気分になった。 シニアなど一人か二人しか見なかったし、講師は居眠りをしている者を許しはしなかった。マイクを置いてその人の席まで行き、どうしました？千葉県警はやる気満々だ。 あ、雨の日には行かない方がいい。簡単に建物には入れてくれぬ。外で整理券をもらい、時間まで待つ。 帰りは最寄りの駅でご飯を食べる気になった。スマホ様に聞…

帰りに買って帰ろう。先ずは厚焼き玉子と焼き芋。それに、カボチャサラダ。 テレビでヤオコーを取り上げていた。「カボチャサラダ」に生クリームを入れている。美味しい物はカロリー無視だ。大体今までカロリーを、気にし過ぎ。 放射線治療が終わり、毎日の通院がなくなる時、医師に聞いた。 「これからどんな事に気を付けたらいいですか？」 「太らないようにして下さい。」 これからは３ヶ月に一度の通院になるのは…

女性が一人立って草薮を見つめている。もしかすると。私はバイクを停め、エンジンを切る。足音を立てないようにそっと歩く。 キジだ。以前ここで一度見た事がある。スマホで撮りたい。キジはなかなか横を向かない。 女性に近づいた。撮っている。小さな声で話し掛けた。逃げない。 ５時半まで仕事した後、ホームセンターを目指した。普段はスーパーに立ち寄り家に直行する。 苗を買い花や蕾を切り落としたら、ニチ…