「中世史」の日記一覧

会員以外にも公開

本郷和人「武士とはなにか 中世の王権を読み解く」

 著者の本郷先生は東大教授であるが、日経に歴史コラムを連載していた時期があり、面白かったので本書を手にした。本郷先生はアカデミックの世界に閉じこもることなく、歴史の面白さを伝えようと積極的に活動されている。本書もその活動の一環である。冒頭、中世に国家は存在したのかについて議論があり、権門体制論と東国国家論が論じられている。鎌倉幕府以降、武士が政治の中心を担う歴史が叙述されるが、権門体制論は天皇を…

会員以外にも公開

太田道灌と北条早雲

 峰岸純夫の「享徳の乱-中世東国の「三十年戦争」-」を読了した。著者は東京都立大学名誉教授、元中央大学教授で、専門は日本中世史である。本書では、鎌倉公方足利成氏が関東管領の上杉憲忠を誅殺した事件を発端として東国で起こった「享徳の乱」が、結局は京に飛び火して「応仁・文明の乱」を誘発したことが論考されている。  著者は本書の冒頭で、彼の長年の持論である以下の二点を力説しており、関東で起こった戦乱を著…

会員以外にも公開

李氏朝鮮に囚われた阿蘭陀人

 ヘンドリック・ハメルの「朝鮮幽囚記」を読了した。著者はオランダ東インド会社の会計係であり、1653年7月、交易船デ・スペルウェール号で長崎に向かうが、朝鮮半島南部沿岸の済州島沖で暴風に会って難破して李氏朝鮮に救助され、13年間の幽閉生活を送る。その後、脱走して日本に到着し、本国に帰還した後本書を著わし、当時西洋では未知の国であった朝鮮を紹介している。  本書は平凡社の東洋文庫に収録されたもので…

会員以外にも公開

陰謀史観の誤り

 呉座勇一の「陰謀の日本中世史」を読了した。著者は国際日本文化研究センター助教で、専攻は日本中世史であり、前著の「応仁の乱」が大ヒットしている。本書は、「応仁の乱」、「本能寺の変」や「関ケ原の合戦」など、陰謀史観で語られることの多い中世日本の大事件を再検証し、陰謀論が誤りであることを解説した作品である。  従来の俗説は陰謀史観と呼ばれることが多いが、それと対比すると著者の歴史観は反陰謀史観とも呼…

会員以外にも公開

土の城の魅力

 西股総生の「杉山城の時代」を読了した。著者はフリー・ライターで、中世の城郭、城館に関する在野の研究者でもある。本書は、緻密な縄張りで知られる杉山城の築城の謎を、「縄張り学」と考古学の双方の観点から検討したものである。  本書で取り上げる「杉山城」とは、埼玉県比企郡嵐山町杉山にある土の城で、国の史跡に指定されている。同城は土塁に囲まれた複数の曲輪を有する山城であるが、「虎口」、「馬出」、「横矢掛…

会員以外にも公開

天目山での最期

 平山優の「武田氏滅亡」を読了した。著者は山梨県立中央高等学校教諭、山梨大学非常勤講師で、日本中世史・近世史が専門の在野の歴史学者であり、山梨郷土研究会、武田氏研究会(副会長)等に所属している。本書は主として、長篠合戦以降の武田勝頼の行動を解析することにより、戦国の雄である武田氏滅亡の原因を詳細に検証したものである。  本書は全書版で750ページを超す大著である。一次資料を豊富に引用し、あたかも…

会員以外にも公開

クルアーンの下の平等

 カレン・アームストロングの「イスラームの歴史-1400年の軌跡-」を読了した。著者はイギリス生まれで、ローマ・カトリックの修道女出身の作家・比較宗教学者である。本書は、イスラームの誕生から近代化、世俗化、西洋文化との対立、原理主義の誕生等、イスラーム1400年の歴史を概観したものである。なお本書は、初版がロンドンで2000年に発行された後、著者の短いあとがきが加えられた形で2001年にアメリカ…

会員以外にも公開

奈良から見た大乱

 呉座勇一の「応仁の乱-戦国時代を生んだ大乱-」を読了した。著者は国際日本文化研究センター助教で、専攻は日本中世史である。本書は、日本史上最大の大乱と言われる応仁の乱を、新たな視点で読み解いたものである。  戦前の東洋史家の内藤湖南が応仁の乱を「日本史を両分する画期となる戦乱」と定義し、「今日の日本を知るためには応仁の乱以降の歴史を知っていたらそれで沢山」と指摘したこともあり、同乱は日本史上最大…

会員以外にも公開

仮名手本忠臣蔵

 亀田俊和の「観応の擾乱-室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い-」を読了した。著者は‌本書執筆時には京都文学部非常勤講師であったが、現在は国立台湾大学日本語文学系助理教授の様である。本書は、室町幕府を開いた征夷大将軍・足利尊氏と幕政を主導する弟・直義との対立から起きた内乱、「観応の擾乱」の全貌を紹介したものである。  観応の擾乱とは、狭義でいえば、室町幕府初代将軍足利尊氏および執事高師…

会員以外にも公開

蒙古襲来の真実

 服部英雄の「蒙古襲来」を読了した。著者は九州大学比較社会文化研究院名誉教授で、専門は日本中世史である。本書は、従来合理的説明に欠けるところのあった蒙古襲来(元寇・文永弘安の役)を、「蒙古襲来絵詞」をはじめとする史料を徹底的に読み直すことにより見直したものである。  蒙古襲来は元皇帝クビライハーンの命令によるものであるが、著者は先ずクビライの目的が火薬の原料である硫黄の確保が目的であったとしてい…

会員以外にも公開

車懸りの陣

乃至政彦の「戦国の陣形」を読了した。本書の記載によると、著者は戦国史研究家だそうである。本書では、中世戦国時代の合戦記にしばしば登場する、「陣形」の歴史を見直したものである。  著者は先ず、シミュレーションゲームで有名になった魚鱗、鶴翼等の陣形の実在を問うことから本書を書き起こしている。これらの陣形について解説している軍学書は、山鹿素行の「武教全書」を初めとして、江戸時代に成立したものが多く、著…

会員以外にも公開

階級闘争史観の否定

呉座勇一の「戦争の日本中世史−「下剋上」は本当にあったのか−」を読了した。著者は、東京大学大学院総合文化研究科学術研究員兼国際日本文化研究センター客員准教授で、専攻は日本中世史である。本書は、鎌倉末期の元寇から室町初期にかけての南北朝時代の戦争を、新資料に基づき新たな視点で解説したもので、第12回角川財団学芸賞を受賞している。  本書において日本の中世とは、保元・平治の乱後の平氏の台頭から戦国大…

会員以外にも公開

中世の怪しいものたち

本郷恵子の「怪しいものたちの中世」を読了した。著者は東京大学史料編纂所教授で、専攻は日本中世史である。本書は、山伏、占い師、ばくち打ち、勧進聖等、怪しい存在でありながら、虐げられた民衆に宗教的慰藉を与えた人々の果たした宗教的効用を描いたものである。  中世においては朝廷(公家)と幕府(武家)の二つの政権が対立して存在していたが、それぞれ天皇を中心とする貴族社会および御家人の利益を守るための組織で…

会員以外にも公開

騎馬と鉄砲の闘い

平山優の「敗者の日本史 9 長篠合戦と武田勝頼」を読了した。著者は山梨県立中央高等学校教諭、山梨大学非常勤講師で、日本中世史・近世史が専門の在野の歴史学者であり、山梨郷土研究会、武田氏研究会(副会長)等に所属している。本書は主として、甲斐武田氏滅亡の契機となった長篠合戦を詳細に検証したものであるが、それ以外にも武田軍の軍編成、戦闘方法や武田勝頼愚将論など検討は多岐に亘っている。  武田(諏訪)勝…

会員以外にも公開

北条氏はなぜ将軍にならなかったのか?

細川重男の「北条氏と鎌倉幕府」を読了した。著者は國學院大學・東洋大学非常勤講師で、専門は日本中世政治史、古文書学である。本書は、承久の乱を制して執権への権力集中を成し遂げた北条義時と、蒙古侵略による危機の中、得宗による独裁体制を築いた北条時宗の二人に焦点を絞り、鎌倉幕府の政治史を見直したものである。  本書では先ず素朴な疑問として「、北条氏はなぜ将軍にならなかったのか。」との問が発せられている。…

会員以外にも公開

ボヘミア版千夜一夜物語

フランティシェク・クプカの「カールシュタイン城夜話」を読了した。著者(1894年生〜1961年歿)はチェコスロバキアの散文作家、詩人、劇作家、文学史家、翻訳家であり、第一次世界大戦に従軍してロシア軍の捕虜、第二次世界大戦中はゲシュタポによりベルリンで投獄、戦後はブルガリア大使を務めるなど、多彩な人生を送っている。  1371年、時の神聖ローマ皇帝カレル四世は、神聖ローマ帝国の首都プラハの宮廷で毒…

会員以外にも公開

京と鄙を繋ぐもの

酒井紀美の「戦乱の中の情報伝達−使者がつなぐ中世京都と在地−」を読了した。著者は茨城大学教育学部教授で、専攻は日本中世の村落史、荘園史である。本書は、応仁の乱の前夜に当たる時代に、京都の東寺とその庄園である備中国新見庄の庄官達との間で取り交わされた多数の文書を解析することにより、当時の庄園の生活の実態を明らかにするとともに、京と在地間の情報伝達の運用に迫ったものである。  本書で取り上げられる新…

会員以外にも公開

日本国王冊封

小川剛生の「足利義満−公武に君臨した室町将軍−」を読了した。著者は慶應義塾大学文学部准教授で、専攻は中世歌壇史である。本書は、室町幕府三代将軍足利義満の生涯を、多くの側面から新たに捉え直し、従来から伝わる義満観を再度検証したものである。義満は三代将軍として、脆弱であった武家政権を強力なものとし、室町幕府の最盛期を築き上げたが、その一方、日本国王僭称、対明屈辱外交から果ては皇位簒奪説まであり、日本…

会員以外にも公開

戦国時代の兵農分離

西股総生の「戦国の軍隊−現代軍事学から見た戦国大名の軍勢−」を読了した。著者はフリー・ライターで、中世の城郭、城館に関する在野の研究者でもある。本書は、戦国大名の「軍隊」の構成について、最新の史料を用い、「軍事」の視線から再検討したものである。  第1章 戦いの現場から-天正十八年の山中城攻防戦:戦国時代末期の城攻めの一例として、小田原の役の前哨戦である豊臣秀吉軍による山中城攻防戦を、中村一氏家…

会員以外にも公開

神の望みしもの

塩野七生の「十字軍物語 3」を読了した。本書では、リチャードとサラディンとが対峙する第三次十字軍から、悲惨な結末に終わった第八次十字軍までの歴史と、十字軍が西欧世界に及ぼした影響が記述されている。  第一章「獅子心王リチャードと、第三次十字軍」:1187年9月にキリスト教の聖都イェルサレムは、イスラムの英雄サラディンにより失陥する。これに対し、ローマ法王庁の対応は遅かったが、遂にイギリスの獅子心…