さんが書いた連載日常3の日記一覧

会員以外にも公開

「入道雲」

これほど入道雲を見た年があっただろうか。食堂の窓から見える空には驚くほど縦に長い雲が伸びていた。 「あっ、また形が変わったわ。」 ハナ子さんが言う。さっきから黙っていたが、空を見ていたのだ。隣のスミ子さんも一緒に見始める。 「ホントねえ、すぐに形を変えるのね。」 勤務は元のユニットだ。こうした何気ない会話にホッとする。重症者が多いユニットでは、こうした会話をまだ聞いていない。ただ車椅子に座っ…

会員以外にも公開

「クレイジーな奴等」

迷っていた。重症者が多いユニットへ行ってみないか。そちらで退職者が相次いだ。 一体どこまで行くつもりなんだ。もう辞めたっていい年齢だ。誰も文句は言わない。知らなくていい世界だってある。 テレビで『絶景を駆け抜けろ!激走富士山麓168キロメートル』を見た。フルマラソン4回分の距離、それも並じゃない山を幾つも登る。クレイジーとしか言いようのない世界の猛者たちが走る。以前も見たことがあった。寝ずに…

会員以外にも公開

「関東梅雨明け!」

最近天気のことを記録しておきたいと思う日が続いている。去年、私がスズメバチに刺されたのは、8月に長雨が続き、蜂の繁殖期に影響があってとかで、たかが天気くらい、とは思えなくなっている。熊も人間を恐れない種類が現れて、去年は人が襲われる事件が相次いだ。 今日、職場でベランダに洗濯物を干していたら、もう蝉が何匹も鳴いていた。朝5時くらいに目覚めた時は外が明るかったから、洗濯物を外に干したが、6時半…

会員以外にも公開

「蒸し暑い」529

昨日今日とここ千葉県北西部は強風が吹き荒れた。もう台風並みだ。テッポウユリは終わったが、まだカサブランカがある。ここでぽっきり折れたら泣くに泣けない。リビングに避難させた。 玄関前にある鉢の中でも、今年になってぐんぐん伸びて来た「大型宿根性ハイビスカス:タイタンビカス」も、玄関に入れた。これは去年買ったもので、直径20センチはある芙蓉に似た花を咲かせる。 油断していた。トマトが数か所ポッキリ…

会員以外にも公開

「蝉が鳴いた!」532

6月24日(日) ベランダに出て大きなバスタオルを干していた。林の方からジージーと何やら音がする。まさか。 「ねえ、蝉だよね。蝉が鳴いてるよ!まだ6月なのに。」 雨の後急激に温度が上がったから、夏が来たと勘違いしたのだろうか。 6月25日(月) 朝7時過ぎ、ベッドに横になっているバサマに挨拶しに行った。髪の毛が濡れている。ホッペも幾分赤い気がする。 「大丈夫ですか?暑くないですか?」 体温計で…

会員以外にも公開

「空き巣に入られた?!」536

ジョギングクラブから帰って来た。久しぶりで気持ちよかったし、9月の箱根合宿の詳細や、夏のバーベキューの日取りも決まった。 うちに近づいた。お巡りさんのバイクが停まっている。ン?お隣にバインダー抱えた若いお巡りさんが玄関前にいる。個別訪問か?おや?玄関ドアの周囲をメジャーで測っている。 聞かずにいられない。 「何かあったんですか?」 「空き巣に入られたんです」 ええっ?!!!昨日4時過ぎに帰…

会員以外にも公開

「癌より怖い地震」532

「鳴らなかったよね、携帯」 「あれは地震が起きる地域しか鳴らないのよ」 日勤の職員がやって来た。私は7時からの早番だった。 「大阪で震度6弱よ」 通勤途上で知らないだろうと言ってみた。 「そうなの。長男がいるのよ」 同僚はスマホで連絡を取っている。顔が真剣だ。暫く返信が来なかったが、やがて来てみんながホッとした。 「阪神淡路大震災」のときは早朝まだ暗い時間帯だった。あの時も職場のテレビを点…

会員以外にも公開

「夜のスーパー」

朝起きると真っ先にやっていた野菜スープ造りをしなくなった。味のないスープが美味しく感じられなくて。て美味しくないものはする気になれない。 今朝体重計に乗ったら一番痩せていたときより2キロも増えている。臍の下辺りの肉が摘まめる。 理由ははっきりしている。最近甘い物ばかり食べているし、昨日夜9時ごろラーメンを食べた。 何で夜ラーメンかというと、「YOUは何しに日本へ」(録画)のせいだ。太ってい…

会員以外にも公開

「探している時には見つからない」

5時前に目が覚め、そのまま起きて新聞を取りに行った。ヤマボウシの鉢を見る。自然に笑みが浮かぶ。昨日仕事を終えて帰宅し、着替えてまた出掛けて買ってきた。仕事だけで一日を終えたくなかった。 「見てまわったんですが、なかったんですよ。」 そう私が言うと、滅多に行かない花屋の主人が言った。 「探しているときには、見つからないもんなんです。」 私は数鉢あったヤマボウシの中からピンクの花にした。ピンクは…

会員以外にも公開

「おかえりなさい」

キョウジュの部屋のアラームが鳴った。見に行くと、目を覚まして手を動かしている。起き出す気配はない。私はまた食堂に戻った。 ピンポーン、今度は玄関だ。私が向かうと後ろからジサマが付いて来ているのは気配でわかっていた。 遅番のスタッフが出勤して来たのだ。玄関のドアを開けると、同僚はさっと入って来た。ドアは長く開けていられない。 「おかえりなさい」 後ろから声がした。ジサマだ。 「そうですよね。…

会員以外にも公開

「母の日に」

昨日は自分を褒める日が誕生日なんだと気付かせてもらった。私は「母の日」と誕生日が近いからお祝いは一緒で、もう子供たちからプレゼントをもらっている。だから心は満タン。 で、今日はプレゼントについて。 プレゼントをくれ。男から養ってもらう人生を送らなかったからこそ、オカンはプレゼントが欲しい(笑)。 人にプレゼントするのは大好きだ。何がいいだろうとまずはアンテナを張り、決まったら今度は納得する…

会員以外にも公開

「恋する60代」

「ほら見て」 友人はそう言って首元をはだけた。ブラの肩紐が見えた。薔薇の刺繍が連なっている。 「私の一日分の稼ぎくらいしそうね。」 「するわね。」 なぜそんな話になったか。私達より20歳近くも高齢の共通した知人が、最近また綺麗になったからだ。 「彼女は女を捨ててないものね。カレがいるっていうし、お洒落だし、背筋だってピンと伸びてる。最近またちょっと痩せたわよね。」 「そうよね。幾つになっても…

会員以外にも公開

「キレる60代」

出掛けた帰り、エキナカのユニクロに寄った。確かセールをやっていたはずだ。パンツ(未だにこの言葉には抵抗がある、ズボンと言いたい)が半額になっている。Lにするか、XLにするか、試着してみることにした。レジの奥が試着室になっていて、今は満室らしい。 空いたら店員が呼んでくれると言うので、近くで他の品物を見ていた。するとレジで私と同年配に見える女性が、店員と話しているのが聞こえてきた。 「私は時間で…

会員以外にも公開

「目に青葉」

「目に青葉 山ホトトギス?」 「初ガツオ!」 嬉しそうに答える婆様達。食堂の南側は床面から大きなサッシ窓になっていて、窓一面に新緑が溢れている。ついつい何度も「目に青葉」と言いたくなる。 仕事のない日、ウチにいると、これほどの新緑を見ることはできない。隣家の白い壁が迫っている。 私は朝起きれば必ずラジオかテレビを点け、ほぼ一日中何か機械的な音で満たされているから、鳥の囀りなど聞こえてこない…

会員以外にも公開

「60代が日本を支えている?!」

男性の前の席に座ったのはきほど見かけた半袖の女性だった。まだまだ半袖には早い時期だった。彼女が持って来たトレイにも、私が取って来た量をはるかに凌ぐ量が載っている。 先日、出掛ける時に腹ごしらえに寄ったファミレスには、中学生のグループもいたし、若者のカップルも、リタイア組も、親子連れもいた。 私は普段、生野菜のスムージー中心の朝食だが、バイキングとなれば、話は別だ。それでも一度に大量の食べ物を…

会員以外にも公開

「美しい人」

私はまたバイクに乗った。8時間勤務はかなり疲れるので、一度帰宅したらもう外に出ることなど殆どなかったが、あの緑地を目指そうと思った。走り出して、遠い気がした。近所にも生えているはずだ。田んぼに向かった。 道端を見ながらゆっくり走らせていくと、あるにはあるがここは犬の散歩道。至る所に排泄しているはずだ。もっと遠くに行ってみよう。 すると田んぼ道と林の道が交差するところに、一人の女性が腰かけてい…

会員以外にも公開

「君子蘭」

会議があって遅くなった。くたくただった。帰宅すると「ただいま」と『桃太郎』に言っている。室内に入れておいてよかった、雨に当たったら花が傷んでいた。 咲き切ったら本当に大きい。10センチはある。後ろに控えているのはクンシラン。高貴な花のイメージから付いた名前だと言うが、この椿の前では霞んでしまう。 尤も違う理由で私はこの花に惚れ直した。橙色が一般的で、ラン展で見るようなラン特有のユニークさや派…

会員以外にも公開

「あったかい」

あったかい。一気に春だ。気持ちまで明るくなる。その上こんな花を見たらもう人に見せびらかさずにいられない。 数年前に買った椿「桃太郎」。桃太郎と言う名前の通り、明るいピンク一色。それが咲いた。 買った年は一輪だけだったし、その後も2輪くらいしか咲かなかった。半ば諦めていた。鉢の場所を変えてみた。蕾を幾つも付けた。何度も数えた。ちょうど10個だった。楽しみにしていた。 咲いたら、もっと凄かっ…

会員以外にも公開

「起きていても一人寝ていても一人」

牛小屋で踊る年老いた男女。女性は103歳、男性は89歳だという。 最近出掛けると妙に疲れる。今まで自分が年取ったと感じたことはなかったし、今までで一番健康だと思っていた。60歳を過ぎているのだ、疲れるのは当たり前だ。 帰宅してすることは炬燵に潜り込んで、リモコンでテレビを点けること。どこも大して面白そうな番組はなかった。困ったときのBS頼みで、BS3を押した。海外の歴史ものドラマだった。B…

会員以外にも公開

「閉店」

「一個幾らですか?」 「300円」 仕事帰りに同僚に聞いた、農家が出しているお店に寄った。少しでも安い野菜が欲しい。二人いた男性のうち、息子らしい男性が不愛想に答えた。思わず「たけー!」と心の中で叫ぶ。私はその前日、その言葉をすぐ後ろで聞いた。 その日が最終日だった「西武デパート」に行った。何か買いたいものがあったわけではない。ただこれほどの規模のデパートが閉店する最終日を見たかった。もし投…