「ミステリー」の日記一覧

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二匹の熊

 河崎秋子の「ともぐい」を読了した。著者は直木賞作家で、2011年第45回北海道新聞文学賞佳作入選した「北夷風人」で作家デビューし、本書で2024年第170回直木三十五賞を受賞している。本書は、明治後期の北海道で、熊撃ちの猟師として生きた一人の男を描いた物語である。  物語の舞台は、日露戦争開戦前夜の北海道白糠の山奥で、主人公は山の中で一人で暮らしている猟師の熊爪である。とある冬の日、零下三十度…

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女性限定のライブでの大量殺人

 パスカル・エングマンの「黒い錠剤-スウェーデン国家警察ファイル-」を読了した。著者はスウェーデン在住で記者出身の作家で、2017年に作家デビューしている。本書は「ヴァネッサ・フランク」シリーズの第二作で、インセルによる殺人事件を描いた警察小説である。  本書の主人公は、四十三歳で県警組織犯罪班からスウェーデン国家警察殺人捜査課に異動したばかりの女性警部のヴァネッサ・フランクである。彼女は最近で…

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倒産と清算の差異

 伊岡瞬の「清算」を読了した。著者はミステリー作家であり、2005年「いつか、虹の向こうへ」で第25回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、作家デビューしている。本書は、不慣れな部総務部門に突然異動になり、会社の清算業務を行うこと命じられた会社員を襲ったトラブルを描いたミステリーである。  本書の主人公で四十五歳の畑井伸一は、大手の新聞社八千代新聞社の系列会社の八千代アドバンスの制作部次長である。八千代…

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少し変わったアメリカンドリーム

 コルソン・ホワイトヘッドの「ハーレム・シャッフル」を読了した。著者はアメリカ在住の小説家であり、「地下鉄道」と「ニッケル・ボーイズ」でピュリッツァー賞を二度受賞している。本書は、ハーレムで中古家具店を経営しながら、従弟のために盗品の売買に関わらざるを得なくなったアフリカ系アメリカ人の姿を描いた、一種の犯罪小説である。なお、本書は三章から構成されている。  本書の主人公でアフリカ系アメリカ人のレ…

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古書に憑かれた男

 芦辺拓の「奇譚を売る店」を読了した。著者はいわゆる新本格派のミステリー作家で、ミステリーに対する造詣の深さ、博覧強記で知られる。本書は古書をモティーフとしたホラーの掌編集である。本書では、古書蒐集に憑かれ、古書店を見かけるとその店に入って毎回古書を買ってしまう語り手が迷い込む、現実と虚構のあわいで出会う幻想怪奇が描かれている。  「帝都脳病院入院案内」:「また買ってしまった」との呟きとともに語…

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雪の密室の不可能犯罪

 楠谷佑の「案山子の村の殺人」を読了した。著者はミステリー作家で、高校在学中の2016年に「無気力探偵~面倒な事件、お断り~」で作家デビューしている。本書は、著者と同じ名前のペンネームを持つ、大学生の従兄弟二人のミステリー作家のコンビが名探偵役の、雪の密室タイプのミステリーである。  宇月理久と篠倉真舟は、二人とも同じ創桜大学二年生の従兄弟であるが、二人は楠谷佑というペンネームで活動するプロのミ…

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誰にも知られていない男

 キャサリン・ライアン・ハワードの「ナッシング・マン」を読了した。著者はアイルランド在住のミステリー作家で、世界各地を旅行して様々な職業に就いた後帰郷し、作家としてデビューしている。本書は、連続殺人犯に家族全員を殺害された被害者が、その犯人の正体を暴くために十八年後に上梓したノンフィクションを読んだ犯人の心の葛藤を描いたサイコサスペンスである。なお、本書では被害者の家族が上梓した作中作の「ナッシ…

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魑魅魍魎の世界

 葉山博子の「時の睡蓮を摘みに」を読了した。著者は小説家で、2023年に本書でアガサ・クリスティー賞大賞を受賞して作家デビューしている。本書は、太平洋戦争前夜から末期にかけての仏領インドシナを舞台にした歴史群像劇である。  1936年春、本書のヒロインの滝口鞠は幼い時に母親を亡くし、父子家庭で育ったが、綿花交易の商社に勤務する父親がハノイ駐在所の所長として赴任したため、内務省官吏の伯父の家に寄宿…

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蝙蝠のスカトロジー

 サラ・ヤーウッド・ラヴェットの「カラス殺人事件」を読了した。著者はイギリス在住の生態学者であり、2020年に本書でミステリー作家としてデビューしている。本書は再開発のための事前の生態学的調査を依頼され、罠に嵌められて殺人事件の容疑者にされた生態学者の姿を描いたミステリーである。  本書の主人公は「エコロジカル・コンサルタンツ」という環境評価会社に勤務するネル・ワード博士である。彼女の専門は主と…

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死神が座る場所

 無門亭無舌の「落語魅捨理(ミステリ)全集-坊主の企み-」を読了した。出版社の説明では著者はすべてが謎の作家とされているが、山口雅也の別名義であることは明らかである。山口雅也は本格派の推理小説作家で、パラレルワールドのイギリスを舞台とした「キッド・ピストルズ」シリーズ等、実験性の高い作品が多いが、ミステリー評論家としても活躍している。本書は古典落語をモチーフとしたミステリーの連作短編集である。な…

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書き換えられた遺言書

 マシュー・ヘッドの「贖いの血」を読了した。著者は美術史研究家で、余技でミステリーを書いており、生没年は1907年-1985年である。本書は1943年刊行の著者のデビュー作で、大富豪の老婆の殺人事件を描いたミステリーである。本書の視点人物は、ハーバード大学で美術史を学んだ二十五歳の青年のビル・エクレンである。  主人公のビルは大恐慌のために定職に就けず、最近はカンサス州のウィチタで一年間、大学で…

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剣と魔法の世界の殺人

 貫井徳郎の「龍の墓」を読了した。著者は、ミステリー作家で重厚な作風で知られ、2023年より日本推理作家協会代表理事を務めている。本書は、VRゲーム内の殺人事件を見立てた連続殺人を描いた、一種の警察小説である。  元警察官の瀧川は、警察を辞めた後は家に引き籠もり、VRゴーグルを装着してオープンワールドのRPGである「ドラゴンズ・グレイブ」をプレイする毎日である。剣士アリエスとなった瀧川はまず透明…

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朝鮮半島を訪れたアメリカ人のホラー作家

 カン・ファギルの「大仏ホテルの幽霊」を読了した。著者は韓国在住の小説家で、2012年に作家デビューしている。本書は実在の建物であった大仏ホテルを舞台としたゴシックサスペンスである。なお、本書は三部構成であり、第二部で朝鮮戦争直後に大仏ホテルで起こった不思議な出来事が描かれている。  作家の私は、全羅北道裡里市にあった二コラ幼稚園を舞台とした小説を書こうとしていたが、筆が全く進まない。私の母親は…

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人情を理解できない名探偵

 真門浩平の「バイバイ、サンタクロース-麻坂家の双子探偵-」を読了した。著者はミステリー作家で、「ルナティック・レトリーバー」で、2022年第19回ミステリーズ!新人賞を受賞し、本書により光文社の新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の第三期として単行本デビューしている。本書は、刑事を父親に持つ双子の小学生による謎解きを描いたミステリーの連作短編集である。なお、本書の名探偵役は優秀な生徒が集まるこ…

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天賦の才能

 呉勝浩の「Q」を読了した。著者はミステリー作家で、「道徳の時間」で2015年第61回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューしている。本書は、天才的なダンサーのキュウとその二人の異母姉達の愛情、および、彼に魅せられて彼を世界的なカリスマにしようとする人々、また、それを阻止しようとする人々の葛藤を描いたミステリーである。  本書は三部構成であり、主としてハチこと町谷亜八(あや)の視点で語られる。二十四…

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ラジオから聞こえて来る声

 グウェン・ブリストウ、ブルース・マニングの「姿なき招待主(ホスト)」を読了した。著者のブリストウ(1903-1980)とマニング(1902-1965)は夫婦作家であり、ニューオリンズの新聞記者時代に結婚し、三作のミステリーを共作している。その後、夫のマニングはハリウッドで脚本家になり、妻のブリストウは歴史ロマン小説家に転向している。本書は二人のデビュー作であり、1930年11月に発行されている…

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四十六年振りの少女歌舞伎の復活

 辻真先の「戯作・誕生殺人事件」を読了した。著者は1932年生まれであるが、アニメ・特撮の脚本家、推理冒険作家、漫画原作者等の多方面において現役で活躍している。本書は可能キリコ(スーパー)と牧薩次(ポテト)の活躍を描いた「スーパー&ポテト」シリーズの完結編で、2013年9月に刊行されている。本書では、青山から北関東の田舎に転居した後、高齢出産を控えた薩次、キリコ夫妻の目前で起こった不可思議な事件…

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自分の好みの殺人方法

 パトリック・レインの「もしも誰かを殺すなら」を読了した。著者はアメリカ人のミステリー作家で、本名は「貸本系B級ミステリの女王」と呼ばれたアメリア・レイノルズ・ロングである。パトリック・レインは別名義で、生没年は1904-1978年である。本書は、著者名と同じ名前の盲目の犯罪心理学者パトリック・レインを名探偵役としたミステリーであり、雪の山荘型のクローズド・サークル物である。  本書の主要な登場…