「時代小説の蔵」の日記一覧

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砂原浩太朗 の 藩邸差配役日日控(にちにちひかえ)

★3.5 神宮寺藩7万石の江戸上屋敷でおきるドタバタを、差配役の頭、里村五郎兵衛を通して描く。若君の消失事件や藩邸の奉公人の痴話裁定、はたまた奥方の愛猫疾走事件などが起きる。差配役とはなんでも屋なのである。 また、里村家の内情も描写される。夫が責任をとって自裁し離縁となった長女の七緒、小太刀の稽古に熱を上げる澪、よく顔を出す亡き妻の妹、咲乃など。十数名いる差配方の下役の描写も面白い。心配…

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坂井希久子 の 「蓮の露 花暦 居酒屋ぜんや」

★3.3新シリーズ4作目。 お花の拾ってきた鶯の卵はサンゴが温め雛が生まれたがまだ雄雌判別できないが、お花がヒスイと命名した。お花15歳、熊吉19歳。 そのお花が誘拐された。熊吉は必死に探し、突き止めた場所はあの近江屋である。賊は〈蓑虫の辰〉一味、予想通りお花の母親のお槇、チロ吉、七声の佐助がいっしょである。 熊吉は牽牛子(けんごし)を酒に仕込んでもらった。朝顔の種を砕いて粉にした…

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中島久枝 の 「ふるさとの海 日本橋牡丹堂菓子ばなし(十一)」

★3.3 シリーズ11作目。 「紅花色」小萩が伊佐を伴い鎌倉へ里帰りする。鎌倉で見つけた紅花色の干菓子はかつての伊勢松坂の松兵衛のもの。 「松風」小萩が注文を受けたのは松風という菓子。どんなものか、どんな手法で作るのか古い書物しか頼るものはない。 「金柑餅」18歳の幹太が暇な2月に話題となる酒饅頭の宣伝を仲間たちと始めた。小萩は求肥の金柑餅の注文を。 「祝い菓子」厳しく躾られ…

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今村翔吾 の 「茜唄(あかねうた)上」

★3.2 清盛の4男、平知盛から見た平家物語。上巻は各地で反平家の反乱が起き、最後は瀬戸内で木曽義仲軍との戦まで。 清盛が一門を一人でまとめ、あらゆることを決めていくスーパースターとして描かれる。だが、それがゆえに、清盛が死ぬと、残された者は何をやってよいかわからず右往左往するのみ。一門もバラバラになっていく。 そんな中、朝廷とそれを取り巻く官僚に政を任せれば武士は滅亡するしかないと…

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中島 要 の 「誰に似たのか」

★3.4 日本橋の筆墨問屋・白井屋の一家6人の連作物語。 「主の妹お秀」浮世絵師と駆落ちして勘当されたお秀の話。 「主の母お清」隠居した夫を看取ったが死ぬまで隠した妾がいた話。 「主の太一郎」何かと先代の商才と比較される太一郎の気苦労の話。 「太一郎の妻お真紀」実家の跡継ぎ問題に困惑する話。 「長男一之助」13歳の一之助から見た家族や奉公人の話。 「妹の娘お美代」器量よしだがガキ…

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藤井邦夫 の 「お多福-新・知らぬが半兵衛手控帖(18)」

★3.5 新シリーズ18作目。 表紙は夫婦で築いた小間物屋を離縁されたお多福が担ぎ売りをする図。 「大盗賊」はこのところお馴染みになりつつある〈隙間風の五郎八〉が起こした事件がもと。本人が盗みに入った献残屋では50両しか盗まなかったにもかかわらず、献斬屋は千両と古田織部の金継ぎ茶碗を盗まれたと奉行所に申し立てた。 担当はあの定廻りの風間だが、まさか1人だけの犯行とは思わず捜査は難航…

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平谷美樹 の 「大一揆(だいいっき)」

★3.5  1853年の 南部三閉伊一揆を農民側で主導したとされる三浦命助(めいすけ)の目で描く。南部藩ではそれまでも度々一揆は起きているが、この一揆は 仙台藩に越訴するという策を取り、犠牲者を1人も出さなかったことに特徴がある。 物語として読ませるのは、命助が策を小出しにしていき、読者に先を読ませないこと。一揆の主導者として命助の他に権之助、多助、松之助など立場や考え方の違う者が集まり、…

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北方謙三 の 「絶海にあらず 上下」

★3.4 藤原純友の乱を純友の目で描く。 〈上巻〉 北家の傍流である藤原純友はやりたいことも見つからず京でぶらぶらと。初めての任官は伊予の掾で、介の下で治安を司る役目。伊予は郡司の越智一族が支配する地。藤原北家の忠平、良平兄弟は、価値の高い唐物商品の瀬戸内通過を保護し、米や一般の商品の都への流入を厳しく制限していた。純友は徐々に己の直接の部下を増やしていき、瀬戸内の商船流通の自由化に乗り…

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松下隆一 の 「侠(きゃん)」

60歳の銀平は本所一つ目橋の袂で蕎麦屋を営むが、己が一人生きていくためだけと、日に20杯だけの商いと決めている。しかも他が16文のところを10文で食わした。本所方同心の手先を務める勘次、夜鷹のおケイなどが馴染み客だが、物乞いの年寄りに連れられたハナには1杯を恵んでやる。 銀平は半年前から父親の死病と同じ腹痛による吐血が襲うようになった。若い頃に忠兵衛親分のもとで博奕に腕をふるったが、その親…

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青山文平 の 「本売る日々」

★3.3 「松月平助」はこの国に1軒しかない本屋である。本屋とは物之本を売る店、本といえば仏書、漢籍、歌学書、儒学書、国学書、医書などを指す。草草紙や読本は本ではない。平助は同じ本屋でも板行を行う書林を目指している。月1回、4日をかけて20余りの村々を回る。村の知識層である名主が得意先で、頼まれた本や薦めようとする本を背負って回る。 「本売る日々」大の得意先である小曽根村の名主・惣兵衛が7…

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伊東 潤 の「威風堂々(下)-幕末佐賀風雲録」

★3.5 政治家としての一貫性のない姿勢という先入観から、下巻を読む気がしなかったのだが、渡辺房男の「日本銀行を創った男 小説松方正義」を読んで、「明治14年の政変」がどんなものだったのか、別な視点で読んでみたくなり手にした。 薩長中心の藩閥政治を徹底して嫌い、政党政治を目指す。そのためには教育が重要と、藩閥子弟中心の東京大学ではない私学の必要性を感じていく。このあたりは、福沢諭吉の影響…

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朝井まかて の 「朝星夜星(あさぼしよぼし)」

★3.3 朝星夜星とは、朝は夜明け前から、夜は日暮れまで精を出してみっちり働くことで、昭和の中頃までは使われていた言い回し。幕末の長崎で初の洋食屋を始め、明治の大阪でレストラン兼ホテルを開いた料理人・草野丈吉と妻ゆきの物語。 ゆきは肥後の百姓の生まれ、12歳で長崎丸山町の傾城屋・引田屋の下女として奉公に上がり、25歳で1つ下の丈吉の妻となる。出島の商館が4年前に廃止され領事館になっていると…

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坂岡 真 の 「うぽっぽ同心終活指南(一)」

★3.5 10年ぶりの新シリーズ初作。初巻だからか、長尾勘兵衛が命を賭ける場面が何度も。根岸肥前や内与力から吟味方に抜擢された門倉角左衛門が影で庇ってくれるのが保険。娘婿の末吉鯉四郎と岡っ引きの銀次も健在で出番も多い。 「島帰り」は水戸藩作事方の男が不正を訴え、小石川の牛天神で勘兵衛の前で自裁した事件。水戸藩の役人の不正を暴き、評判の悪い岡っ引きの伊六と定廻りの高木甚内も。 「月見の…

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植松三十里 の 「家康の海」

★3.3 仁志耕一郎の「按針」から3年。今回は三浦按針(ウイリアムアダムス)を相談役の家臣とした家康の対外政策を物語にしたもの。 朝鮮の役と秀吉没後にウイリアムアダムスやヤン・ヨーステンがオランダ船リーフデ号で豊後臼杵に漂着した。関ヶ原の戦いの半年前1600年4月(慶長5月)のこと。家康は按針からスペインやポルトガルとイギリスやオランダとの違いを詳しく聞き取る。スペイン、ポルトガルのカトリ…

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渡辺房男 の 日本銀行を創った男 小説松方正義

★3.3 日銀新総裁の植田さんの話題でこの本を読むことにした。 明治10年大蔵卿の大隈重信に次ぐ大蔵大輔である松方正義の西南の役への予算対応から始まる。それまでは地租改正に取り組んでいる。翌11年、パリ万博の政府代表として渡航するが、大久保利通から欧州先進国の経済財政制度を学ぶ許しを得ている。特に先進国の中央銀行の役割に着目し、フランス大蔵省に学び、日本と似ているベルギーに配下の加藤を残し…

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吉川永青 の 高く翔べ-快商・紀伊國屋文左衛門

★3.3 紀伊國屋文左衛門の生涯の物語。 紀州有田郡にある湯浅港の近くの別所の農家の次男に生まれた文吉は、11歳で和歌山城下の材木問屋・西浜屋へ奉公に上がる。17歳で手代となると、木材の切り出し、筏組み、船への係留仕事などに精通していく。 材木商から幕府の廻船航路開設や河川の浚渫などで名をなした河村瑞賢に憧れ江戸へ出た。下総の山林への着目や、荒れた海に命がけの蜜柑運搬などで財をなしていく…

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羽鳥好之 の 「尚、赫赫たれ(なお、かくかくたれ)」

★ 3.3 二代将軍秀忠が西の丸に隠居し大御所となって後、死去するまでの時代を背景とした物語。秀忠の代から続き、家光の「御伽衆」となっている立花宗茂の目で語られる。 全体の1/2を占める「関ケ原の闇」は、家光の要望で関ケ原に至るまでの経緯と、毛利家が最後まで参戦しなかった真相を、同じ御伽衆の毛利秀元を交えて語らせる。 伊勢口を任された宗茂は8月末、薩摩勢1500とともに垂井付近に布陣…

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月村了衛(つきむらりょうえ) の 十三夜の焔(ほむら)

★3.3 御先手弓組幣原喬十郎と元盗賊の千吉(後の銀字屋利兵衛)を主人公としたミステリー。 時代は田村政権から松平定信へと移った後の話。男女の斬殺事件に遭遇した喬十郎は、逃げた男を追うが、10年後、本両替商の主と姿を変えた千吉に再会する。千吉の裏を探るうちに、幕府勘定方と本両替商仲間との癒着の構造が見えてきた。そしてその裏には、蔭で暗躍する組織の存在が・・・。 伝奇的な本格ミステリー…

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渡辺房男 の 「儲けすぎた男 小説安田善次郎」

★3.3 安田財閥を築いた善次郎の前半生。時代の流れとはいえ、人とは異なるその着眼力はすごい。 富山藩の下級武士の嫡男として生まれた善次郎が、日本橋人形通りで鰹節や卵も扱う銭両替店「安田屋」を開いたのは元治元年(1864年)26歳のこと。6年前に江戸へ出て、風呂屋、銭両替屋に奉公し、独立してのことである。最初は入舟町の四辻で戸板に銭を並べた露天商いである。 慶応2年(1866年)に…

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千早茜 の しろがねの葉

★3.5 直木賞作品。石見銀山が舞台だけに、現地を思い出しながら読むことになった。あさのあつこの「ゆらやみ」や、澤田瞳子の「輝山」も。 飢饉で村を逃散する一家、父母とはぐれた5歳のウメは仙ノ山の古間歩(ふるまぶ)で行き倒れたところを助けられた。ウメは〈蛇の寝ござ〉と呼ばれる羊歯(しだ)を握っていた。古来、銀(しろがね)のありかを示すものとされている。 ウメを助けたのは喜兵衛という山師で、鉱…