「時代小説の蔵」の日記一覧

会員以外にも公開

永井紗耶子 の 「木挽町のあだ討ち」

★4.0 この3年ぐらいの間で最高の作品と思える。 「木挽町の仇討」は木挽町芝居小屋の裏手で実際にあった、ある藩士の息子の16歳の菊之助が仇の作兵衛を討った話である。ところが2年後、その話が聞きたいと18歳の参勤交代で出府したという菊之助の友だという武士が現れた。そして森田座の裏方を務める5人の男に次々と聞き取りをおこなっていく。 「芝居茶屋の場」木戸芸者の一八 ・芝居小屋の前で2、…

会員以外にも公開

長谷川卓の「運を引き寄せた男 小説・徳川吉宗」

★3.3 初期初期(1994年)の作品の新装版。 10歳の新之助(後の吉宗)が根来の里で出会ったのが名草の多十とその配下の忍びの者。彼らが吉宗を将軍とすべくの謀略を勤めることになる。多十らとは別に、根来には涌井衆という幽斎を頭とする一派がおり、将来に渡って吉宗と敵対する。紀州藩には「薬込役」16人を藩の隠密調査を行う者がいたが、吉宗はそのまま公儀として「広敷伊賀者」として隠密業務として使う。 …

会員以外にも公開

藤井邦夫 の 「出戻り-新・知らぬが半兵衛手控帖(19)」

★3.3 新シリーズ19作目。 最近は老盗人の「隙間風の五郎八」がよく登場する。「脅し文」では投げ文に書かれた同業の〈夜狐の長次郎〉に関する話。「目利き」では有名な刀剣などの盗みを専門とする盗人探索にからむ。 「出戻り」では半兵衛が助っ人に頼んだ柳橋の弥平次の船頭・勇次が活躍する。犯人の舟による逃走を予期した半兵衛によるもの。 「手遅れ」のテーマは不在証明(アリバイ)を覆す話。殺人…

会員以外にも公開

岩井三四二 の 津軽の髭殿

★3.4 津軽を統一した大浦右京亮(弘前藩初代藩主・津軽為信)の生涯を描く。出自については諸説あるようだが、ここでは久慈郡(岩手県北部)を領する久慈治義の庶子としている。 久慈氏はもともと南部氏の一族で、当時は上ノ久慈家と下ノ久慈家に別れていたが、久慈治義は上ノ久慈家。南部氏の津軽進出で下ノ久慈家が大浦城主となっていた。 治義の後継である信義にうとまれた側室(右京亮の母)は幼い右京亮…

会員以外にも公開

辻堂 魁 の 「乱菊 介錯人別所龍玄始末4」

★3.5 シリーズ4作目、4つの連作。龍玄23歳、妻の百合28歳、娘の杏子(あんず)は3歳である。 「両国大橋」 南部藩の国許から、江戸に駆落ちした妻の紀代と中間の幸兵衛。養子をとり女敵討ちの許しを得て江戸へ出た深田匡はそれを果たすが、幸兵衛が仕える大目付を出す大身旗本から横槍が入り、南部藩は病死とすることにした。自裁を求めたのである。 「鉄火と傅役」 5800石の旗本の嫡男の傅役を…

会員以外にも公開

あさのあつこ の 「光のしるべ  えにし屋春秋2」

★3.5 久々の一気読み。 入口は縁を取り持つえにし屋の商売なのだが、この話はお初が引き受けた「5年前に3歳で行方不明となった子供探し」にからむミステリー事件である。 本所林町1丁目で醤油と味噌を商う「摂津屋」の弥之助とお常の夫婦から依頼された話。5年前にお常が3歳になる息子の平太を伴って縁者の隠居の還暦祝いに出かけた。深川佐賀町の薪炭屋・河内屋である。 この日は泊まりであったが、…

会員以外にも公開

高橋克彦 の 噴怨鬼(ふんえんき)

★3.3 シリーズ6作目。前作より1年経過の仁和4年(888年)の暮、陰陽寮の頭である弓削惟雄(ゆげのこれお)の屋敷で始まる。 屋敷には食客である播磨の術師・蘆屋道隆〈あしやみちたか)、配下の若き紀温史(きのあつし)、郎党の甲子丸(きねまる)、東北から連れ帰った蝦夷の子・淡麻呂(あわまろ)、師の滋丘川人(しげおかのかわひと)の墓から掘り出した髑髏鬼(どくろき)がいる。陸奥からの帰りに伴った…

会員以外にも公開

山本幸久 の 「大江戸あにまる」

★3.3 石樽藩の江戸詰め藩士である木暮幸之進は25歳、江戸留守居役手添仮取次御徒士頭見習という役職だが、幕府への要望などの提出書類の前例を調べる例繰方のような仕事。 かつては藩主の次男である喜平丸のお伽役を務めた。喜平丸12歳、幸之進16最の文政7年(1824年)、両国の見世物小屋で駱駝のつがいに薩摩芋を与えた。 その喜平丸も今は21歳となり、石樽藩主・綾部智親となっている。その智親の…

会員以外にも公開

新田次郎 の 短編集「梅雨将軍信長」

★3.5 8つの短編と1つの中編。技術者や科学者を主人公にした時代小説を新田次郎は「時代科学小説」と呼んでいたらしい。 【梅雨将軍信長】 後梅雨期の豪雨に奇襲し桶狭間で運をつかんだ信長。更には梅雨の中休みを待ち、大量の鉄砲で武田を破る長篠合戦。いずれも気象条件を予知した成果である。だが最後は、天気次第で気が変わると言われた明智光秀に・・・。 【鳥人伝】 飯嶋和一の「始祖鳥記」と同…

会員以外にも公開

西條奈加 の 「隠居おてだま」

★3.5 シリーズ2作目。6つの連作物語。子供たちによる「千代太屋」という王子権現での案内仕事、お登勢が師匠の手習い所「豆堂」、組紐の仕事場である「五十六屋」は続いている。 前作の流れから、組紐の高台が登場したり、帯留めの話が出てくることは自然なことか。ただ、錺職人の秋治と嶋屋のお楽の話を皆で徳兵衛に内緒にしたことで、後でバレ、大変なことに。隠居し、吉郎兵衛に任せたのだから、嶋屋内のことに…

会員以外にも公開

垣根涼介 の 極楽征夷大将軍

★3.7 直木賞候補作。 やる気なし、使命感なし、執着なしの能天気な極楽蜻蛉がなぜ天下を獲れてしまったのか。その陰には弟の直義、執事の高師直がいて全てを画策したのだ。分かり難い時代をありそうな話でまとめ、実に面白い物語にした。 ◆気になったことをメモしてみた。 「極楽殿」 足利家の次男として生まれた尊氏は、8代目当主・高義(母は金沢流北条家の娘)が21歳で病没した時は13歳、弟の直義…

会員以外にも公開

村木 嵐 の 「まいまいつぶろ」

★3.5 9代将軍となった長福丸(家重)と寵臣の兵庫(大岡忠光)の物語。生まれた時からの障害で言葉がうまくしゃべれず、手が震えて字もかけず己の意志の伝達ができない長福丸。頻尿障害もあり、歩いた後には尿を引きずった跡が残り「まいまいつぶろ(カタツムリ)と馬鹿にされた主君。 14歳の長福丸の前に現れたのが16歳の兵庫で、初めて発する言葉を理解する男である。誰もが怪しむのは、忠光が言うように、本…

会員以外にも公開

藤井邦夫 の 帰り道 新・秋山久蔵御用控(十六)

★3.3 新シリーズ16作目。 「返討ち」では珍しく雲海坊の塒に関わる物語。浅草猿屋町は蔵前通りにある浅草御蔵の手前を鳥越川沿いに進んだところにある。街角の稲荷堂の傍に雲海坊の住む古いお稲荷長屋はある。今回は同じ長屋で雨城楊枝を作る浪人・片平兵庫も登場。2人して同じ長屋で錺職を修行中の若い佐吉を気にかける。 「忠義者」では大助が掏摸騒動に巻き込まれる話。「掏摸だ」の声に、逃げてきた男を投…

会員以外にも公開

梶よう子 の 焼け野の雉

シリーズ9年目で2作目。日本橋小松町でことり屋を営むおけいの物語。3年前に青く光る鷺を探しに出かけた夫の羽吉は行方不明だったが、崖から落ちて記憶をなくしその土地の娘の婿となっていた。娘が子を宿していたことから離縁してもらい、ひとりことり屋を続けていた。 神田佐久間町で起きた火事は燃え広がり、日本橋や八丁堀に延焼する。北町定廻り同心の長瀬八重蔵は言葉を失った娘の結衣をおけいに託す。おけいは…

会員以外にも公開

天野純希 の 猛き朝日(たけきあさひ)

★3.5 木曽義仲と彼を取り巻く人々の物語。 河内源氏の一門、源義賢(義朝の弟)の次男・駒王丸として生まれ、一門の争いで父を討たれると木曽谷の豪族、中原兼遠によって育てられる。子の樋口兼光、今井兼平、落合兼行が義仲の腹心となって活躍する。 正室(義高の母)伊吹は諏訪大社下宮の神官・金刺盛澄の娘としている(中原兼遠の娘の説が有力)。巴は丹後の村で平家の侍に幼い息子・力丸を殺され都で禿童狩り…

会員以外にも公開

門井慶喜 の 「文豪、社長になる」

★3.5 文芸春秋を創設し、芥川賞・直木賞を作った菊池寛の生涯。 若い頃はあちこちの大学をふらふらと、金も無いのに、何をやりたいのかわからずというより、執筆業をやりたいが自信がなく、時事新報社会部記者として就職したのが実情のようだ。 『中央公論』への寄稿で「忠直卿行状記」や「恩讐の彼方に」などで脚光を浴び、次の新聞長編「真珠夫人」で売れっ子となる。若手育成の『文芸春秋』創立もその…

会員以外にも公開

あさのあつこ の 「渦の中へ おいち不思議がたり6」

★3.5 シリーズ6作目。30万部突破とある。 おいちは新吉と所帯を持った。場所は路地を挟んだ同じ菖蒲長屋。女房を亡くした巳助の出ていった後である。事件はこの巳助の係わる毒殺事件である。おいちが長屋を出ていく巳助が黒い霧に包まれるのを見てしまったのだ。油問屋・浦之屋で起きた食中毒事件に続く乳母の服毒自殺事件。その犯人は己だとして巳助が自供したのである。 おいちは父親の松庵を手伝いながら、…

会員以外にも公開

植松三十里 の 帝国ホテル建築物語

★3.5 帝国ホテルのライト館の完成までを、ライトを招聘した支配人の林愛作(あいさく)とライトの助手を務めた建築家の遠藤新(あらた)の目を通して語る物語。 明治42年(1909年)赤字続きだった初代帝国ホテルの支配人となった林は、経営の立て直しを行い、手狭となったホテルの新築検討に着手する。目をつけたのはアメリカの若き建築家フランク・ロイド・ライト。ライトは親日家で、浮世絵や日本建築にも理…

会員以外にも公開

砂原浩太朗 の 藩邸差配役日日控(にちにちひかえ)

★3.5 神宮寺藩7万石の江戸上屋敷でおきるドタバタを、差配役の頭、里村五郎兵衛を通して描く。若君の消失事件や藩邸の奉公人の痴話裁定、はたまた奥方の愛猫疾走事件などが起きる。差配役とはなんでも屋なのである。 また、里村家の内情も描写される。夫が責任をとって自裁し離縁となった長女の七緒、小太刀の稽古に熱を上げる澪、よく顔を出す亡き妻の妹、咲乃など。十数名いる差配方の下役の描写も面白い。心配…

会員以外にも公開

坂井希久子 の 「蓮の露 花暦 居酒屋ぜんや」

★3.3新シリーズ4作目。 お花の拾ってきた鶯の卵はサンゴが温め雛が生まれたがまだ雄雌判別できないが、お花がヒスイと命名した。お花15歳、熊吉19歳。 そのお花が誘拐された。熊吉は必死に探し、突き止めた場所はあの近江屋である。賊は〈蓑虫の辰〉一味、予想通りお花の母親のお槇、チロ吉、七声の佐助がいっしょである。 熊吉は牽牛子(けんごし)を酒に仕込んでもらった。朝顔の種を砕いて粉にした…