読売俳壇 6月1日 俳句 溝渕 護 選 看護師の働く姿風薫る 姶良 松元 冨郎 (評)季語は「風薫る」で初夏。昨今コロナウイルスの感染者が全国的に拡大し、国民は疲れ切った状況。その中で医療従事者、わけても看護師の献身的な働きぶりには感謝。切り札はワクチン!それも医療従事者の活躍に期待し、コロナ渦の終息を祈るしかない。 陽炎の軋む市電に母の席 霧島 秋野 三歩春…
読売俳壇 5月25日 俳句 渕脇 護 選 ゆるやかな大河の流れ鯉幟 薩摩川内 城戸 凛 (評)季語は鯉幟で夏。大河とは川内川の事。可愛(えの)山稜や寺山公園等から眺める、この一級河川の流れは雄大で美しい。大河という悠久の自然(大)と鯉幟という日常の人事(小)が対照的に詠まれ、悠揚迫らぬ大景が浮かび上がった。平明で分かりやすく大人の風格がある。 白南風や黒板の文字光るなり …
読売俳壇 4月27日 火曜 俳句 淵脇 護 選 花冷えや段差五ミリにつまづけり 鹿児島 中村池塘子 【評】作者は80歳代半ばだが、いつも背筋を伸ばしうらやましい体幹の持ち主。それが「段差五ミリ」につまづいて、肝を冷やしたのだ。平明で分かりやすい表現に、反省と自戒の思いがありあり。老齢の悲哀もしみじみ。下五は「つまづけ」+「り」で、「けり」ではない。 棲まぬ家連ねて母郷の長閑なる …
薩摩よみうり文芸 俳句 4月20日(火) 俳句 淵脇 護 選 耳掻きをまさかの店に買ひし春 島 水町 志津子 (評)「耳掻き」は耳垢などを取ったり、かゆい所を掻く柄杓型のちいさい道具。作者は紛失した耳掻きを、どこかの店で買う機会をねらっていたところ、果たせるかな、念願の耳掻きを思いがけない、まさかの店で入手したのだ。下五を「春」と大きな季語で締め、さすがベテランの味! 耕して古墳の島…
読売俳壇 4月13日 俳句 淵脇 護 選 国鳥の雉美男二羽背戸に来て 鹿屋 川上 和子 (評)季語は「雉」で春。1947年日本鳥学会が国鳥に選定。「美男二羽」とは誠に優れた雌雄の比喩。オスは広辞苑にも「顔が裸出し赤い。背面の色彩は甚だ複雑美麗」と記すほど美しい。「背戸」は家の裏手。のどかな日本の田園地帯への賛歌。 かたはらに妻ゐて妻の高菜飯 霧島 秋野 三歩 人絶えし山里…
さつま読売文芸 俳句 4月6日(火) 俳句 淵脇 護 選 水の街見下ろす丘や花吹雪 薩摩川内 谷口千枝子 【評】季語は「花吹雪」で春。薩摩川内市は、川内川が貫流する水の街。その街を見下ろす丘とは、寺山公園であろう。 ここから眺める河川の蛇行や、可愛山稜など街のたたずまいは絶景である。寺山は桜の名所、気宇壮大な俯瞰図が浮かび上がり、見事な二句一章俳句となった。 生涯を孤島の医師や蜃気楼 …
俳句 3月30日 俳句 淵脇 護 選 溶岩に体重あづけ楤芽かく 鹿児島 上坪 満代 【評】季語は「楤芽」で春。タラはふつう野に自生するが、現今は栽培された若芽が、スーパーで売られ、総菜売り場ではテンプラとなって登場する。この句は、自分で火山地帯の山に踏み入り、山菜採りに興じている図。「溶岩に体重をあづけ」に実感がこもり、収穫の喜びも伝わってくる。 母の影遠くになりて木の芽道 …
読売俳壇 3月16日 淵鎮 護 選 凍裂の木の間に透けし神の山 島 内村 としお 【評】季語は「凍裂」で冬。「凍裂」は難しい季語で「急激な寒気のため、幹に縦に割れ目ができること。 凍裂した木々の間から、神の山(高千穂)が透けて見えたという厳粛な句。俳句には一カ所切れがあるという厳粛な原則に従えば、「木の間や」という軽い切れを入れることが可能。 寒の朝襟を正して霧島路 霧…
2月23日(火)薩摩よみうり文芸 俳句 淵脇 護 選 大寒を座り直して迎へけり 霧島 水町志津子 (評)「大寒」が季語で冬。今年は1月290日。この日から立春の2月3日までは、最も寒い時期。作者は高経年者だが、「座り直す」ことでこの極寒を迎え撃つ覚悟のよう。 毅然とした姿態で、大人の風格をたたえた句。 口寄せて唄ふ少女の桜貝 霧島 秋野 三歩 木の芽立つ一…
火曜日の読売俳壇(2月16日) 秘め事を少女は胸に龍の玉 薩摩川内 石堂 絹子 (評)「龍の玉」が季語で冬、庭園の縁取りなどに植えられる植物・リユウノヒゲの実。青色・球状で宝石のように美しい。歳時記にこの玉は、「様々なロマンを誘う」と説明するので、この句の「秘め事」はきっと少女の初恋を指しているのだろう。想像をかき立てられるロマンの香り高い句。 高千穂の馬の背越えや雪のひま 霧島 …
俳句 淵脇 護 選 裸木や人にそれぞれ裏表 霧島 久永のり尾 (評)2月3日は立春だったが、実際は厳寒の真っ只中。裸木は冬になって葉を落としつくして枝々があらわになった木を言う。一糸まとわぬ裸木に、内面に隠し持つ人間の素性を見て取った一句。これこそ二句一章の俳句の真骨頂! 熱燗や目尻下げたる母の声 霧島 秋野 三歩 足湯して眺むる海や冬霞 霧島 池田 章 筆…
2月2日 読売文芸 俳句 淵脇 護 選 初春の空使ひきり鶴の舞ふ 出水 西とし江 (評)上五の「初春」は、新年・新春と同じで新年をことほぐ季語。出水平野の鶴の北帰行は、この句は(正月の)初鶴のめでたさを詠んだもの。何よりも「空使ひきり」という表現が抜群で、才覚を感じる。 芒野の夕日の中に僧浮かぶ 霧島 池田 幸雄 コロナ禍に終息願ひ毛糸編む 霧島 池田 直子…
12月15日 読売俳句 淵脇 護 選 老犬の深き眠りや冬に入る 指宿 鳥越 淳子 (評)公園で見かける犬はたいてい老犬である。寒い冬の訪れとともに、この老犬は犬小屋の中、または玄関の片隅などをねぐらに、身体を丸めて深眠りするようになる。人間も着膨れて暖房の虜となる。犬と季語の二物が衝撃した二句一章俳句の秀作。 哀しみをほどいて毛糸玉の数 霧島 秋野 三歩 湯煙の峡に 谺し…
12月15日 読売俳句 淵脇 護 選 老犬の深き眠りや冬に入る 指宿 鳥越 淳子 (評)公園で見かける犬はたいてい老犬である。寒い冬の訪れとともに、この老犬は犬小屋の中、または玄関の片隅などをねぐらに、身体を丸めて深眠りするようになる。人間も着膨れて暖房の虜となる。犬と季語の二物が衝撃した二句一章俳句の秀作。 哀しみをほどいて毛糸玉の数 霧島 秋野 三歩 湯煙の峡に 谺し…
12月8日(火)俳句 俳句 淵脇 護選 開戦日こむら返りに目覚めたり 霧島 尾上 春風 (評)今日12月8日歯「開戦日」。季節は冬。作者や筆者らの年代は、この第二次世界大戦の回線事情は、実感として知る由もないが、終戦後の地獄のような混乱と食糧難は、肌で知っている。「こむらがえり」に今次大戦の痛みと反省が象徴されている秀句である。 高く咲く皇帝ダリア見上げたり 霧島 石田 和也…
淵脇 護 選 婚決めてパールの指輪冬の月 (評)季語は「冬の月」。「パールの指輪」は「真珠の 指輪」、たいそう高価だと聞き及んでいる。この情景は、おそらく花嫁側の喜びであって、上五から中七に婚約成立の喜びがあふれている。しかし、お手柄は下五で「冬の月」と静かな雰囲気でまとめたところにある。 高千穂のゆるりと座る日向ぼこ 霧島 秋野 三歩 遠き嶺に入り日残して暮れ早し 霧島 池田 章…
11月10日(火)薩摩よみうり俳句 俳句 淵脇 護選 鮎落ちてまた廃村となりにけり 鹿児島 永井 旅児 (評)季語は上五の「落ち鮎」で秋。ごく平明な言葉を用い句意は明快である。一村を貫いて流れる川は、昔と変わらず悠久であるが、村里は少子高齢化社会隣過疎化が進んだ。 現代社会を痛烈に捕らえた秀句。 臼据えて村の絆の餅を搗く 霧島 秋野 三歩 滝つぼの水美しき暮れの秋 …