さんが書いた連載読書の日記一覧

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『しあわせのねだん』

200頁にも満たない薄さの文庫本。どこから読んでも作者独特の価値観人生観が窺えて、笑えて、のほほんと安心出来る。 例えば「想像力1000円」では深夜に飲み屋から帰る途中におばさんから声を掛けられ、1000円上げるのだが、これが笑いたくなるような寸借詐欺。 おばさんは友達を頼って田舎から出て来たが、友達はおらずお金も持っていないと言う。作者は想像する、暴力夫から逃げて来たのだ、着の身着…

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『ランチ酒』

実は『ボストン美術館展』に行く前に上野駅構内にあるお店でハイボールを一杯だけ飲んでいた。「HIGHBALL’S うえのステーション」。 まだ朝だというのに、一人で椅子に座り、常磐線から上がって来る人波を見ながら飲むハイボールは解放感に溢れていた。 その時の日記に書かなかったのは「女が一人で」、しかも「いい年をしたオバサン」が、「朝っぱらからお酒」なんて、みっともない、というか、顰蹙も…

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「図書館解禁」

久しぶりの図書館。大勢人がいる。殆どがシニアだ。私は以前図書館が世界で一番好きな場所だと思っていた。 私がコロナのせいにして全く足を向けなかった間にも、恐らくこの人達は通い続けたのだろうと思った。 「残り時間」を意識して、やりたい事や少しでも興味がある事には首を突っ込もうと思っていたが、山や旅や焼肉屋(笑)は沢山あるうちの一つに過ぎない。 「知的好奇心」などという大それたもので…

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『80歳の壁』

私はタイトルを見て笑ってしまった。おいおい何時まで元気で生きなきゃならないんだ?だいたい生きていれば、何時だって壁はあるサ。 買ってしまった。だって暇だったから。 『80歳の壁』(和田秀樹著幻冬舎新書)。帯にはこうだ、「壁を超えたら、人生で一番幸せな20年が待っています!」「810万人『団塊の世代』に朗報!老親を持つ世代も必読」 「25万部突破」 •食べたいものを食べていい お…

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「本は読んでいるけれど」

昨日から急に涼しくなった。30度が涼しく感じるのは湿度が下がったことも関係あるのだろう。 咳で苦しんでいる時も本は読んでいたが、面白くなかった。 ハズレがない宮部みゆき様の『長い長い殺人』も、何でこんなのを読んでいるんだろうなんて思ったし、「シリーズ累計120万部突破」の帯と平積みされた大量の本に惹かれて買った『ツナグ』(辻村深月著)も、最初は死者に会えるという非現実的な内容に付いて行けなか…

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「弱者の暴力」:『星を掬う』

私は「本屋大賞」という言葉に弱い。大賞を取った作品に今まで外れがなかったからだ。 本作『星を掬う』にも「本屋大賞」の文字があった。「2021年本屋大賞受賞後第一作」。大賞作は『52ヘルツのクジラたち』。 読み始めて、ああまたもや不幸の集合体のような女性なのかと思った。が、グイグイ惹き付けられる。 直ぐにあの事件に繋がった。漸くテレビでは下火になったが、人一人を白昼堂々と衆人環視の下で殺した…

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『一日10分のしあわせ』53:6

これを耳で聞いたんだ。一気に読み終わった『一日10分のしあわせ』を閉じた時、思った。 「全世界で聴かれているNHK WORLD JAPANのラジオ番組で、17の言語に翻訳して朗読された作品の中から、人気作家8名の短編を収録」 どんな国の人達がどんな思いで聞いたのだろう。国は違えど人の求めるものは変わらないと、遠い日本という国を思いながら聞いたのだろうか。 どの短編にも悪人は登場…

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『愛なき世界』53:8

「洋食屋『円服亭』は、東京都文京区本郷の高台にある。ちょうど、国立T大学の赤門の向かいあたり、本郷通りから細い道にちょっと入ったところだ。」 冒頭から妙にホッとする。はっきり東大と分かるせいだろうか。洋食屋で働く青年と、東大の研究室で研究する娘。この二人に接点などあるのだろうか。 あった。研究室に出前を持って行くのだ。東大だろうがご飯は食べる。偶々応対した娘は研究の事を話す。研究して…

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「本屋大賞『同志少女よ、敵を撃て』」

本を読まない期間が続いた。買ったはいいが積ん読だけの本が何冊もあった。中でも気になっていたのは「2022年本屋大賞」。『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬著 早川書房。表紙は美しい少女が銃を構えた絵。今までの文芸書にはない雰囲気だ。 ところが最初の1頁で本の世界に引きずり込まれる迫力満点の一冊だった。 「照準線の向こうに獲物を捉えたとき、心は限りなく『空』に近づく。単射式ライフルTOZ_…

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『ダーウィン事変』

衝撃、感動、ショック。何の予備知識もなしに手にした一冊。 上野駅のサントリーバーに行ったら、本屋に行かずにはいられない。そこで2冊を仕入れた。 一冊はマンガ。2022マンガ大賞の『ダーウィン事変』。変わった題名だ。表紙は洋服を着たチンパンジー。 私は小説など「文学」の下に漫画を位置づけていた世代だが、手塚治虫の『ブッダ』を読んで変わった。 「マンガ大賞」受賞作品に間違いは…

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『残月』

あの月を何と呼べばいいのだろう、「残雪」があるのだから、やはり「残月」もあるのだろうか。ザンゲツ、響きが見ている光景に似合わない。 朝6時半に家を出ると明るくなっている。玄関は西向き。空には不思議な月が丸く見えていた。 夜の煌煌とした感じは消え失せ、かといって昼間の儚さもない。もっとはっきりと自分を主張している。 色は矛盾した言い方だが、濁りのある透明感。和菓子のスアマを水色に…

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「三十代で非正規で:『三十の反撃』」

あの『アーモンド』(https://smcb.jp/diaries/8259592 )を書いた作家の第二弾。以前本屋で探した時は見つからなかった一冊だ。 韓国ってエネルギッシュなイメージがある。熱狂的な支持を得て大統領になっても最後は大抵逮捕されて消えて行く。 本書はかなり政治的な事が出て来るが、それは当然で国を上げての大規模なデモが行われた時に青春時代を送った、1988年生まれで今…

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「ディズニーランドの裏側」:『ミッキーマウスの憂鬱』

東京ディズニーランドのある「舞浜駅」は日本ではない。一度駅で友人と待ち合わせをした時、改札口から出て来る人出て来る人、皆「アメリカ人」だった。 まだ夢の国に入っていないのに、皆笑顔でテンション高く、中には服装もぶっ飛んでいる人がいた。何処にも日本人のワビサビはなかった。私自身の古臭い頭を揺さぶられているようで、見ていて飽きなかった。 私はファンタジーには浸りきれない人間なので、自ら行こうとは…

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「若い人」:『いのちの車窓から』

若い人が全く新しい感覚でどんどん活躍の場を広げて行く姿を見るのは楽しい。 私が知っているのは一生の間に職業は一つ。今は俳優も歌手も、その上本まで出す若い人がいる。 「星野さんはどうして文章を書くんですか」と聞かれ、こう答えている。 「メールを書くのがものすごくへただったから」、書くことを仕事にしたら「強制的に切磋琢磨できる」と考えたからだという。 「目で見た景色と、心の中の景色を描写するこ…

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「あと10年は絶対に生きていたい」:『護られなかった者たちへ』

私はミステリーは読まない。だって殺人事件は苦手だもの。どうしてこの本を手に取ったか。だって佐藤健が普通の青年のように必死な顔をしていたから。 佐藤健という俳優は、この世にどうしてこれ程完全な美しさを持つオトコが存在するのだろうと思うような美形で、それを鼻にかけていないと思わせる。それがボヤケて何かを必死に見つめている。 「30万部突破 号泣必至の社会派ミステリー」とあるが、映画化されてからの…

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「狂気の前では理性などなんの力もない」:『三体』

最近起きたオゾマシイ事件ナンバーワンは、大阪の心療内科放火殺人事件。医師と社会復帰を目指していた多くの人を殺し、60代の犯人も死んだ。 ところが、またもや医師が殺されるイヤな事件が起きた。埼玉県人質たてこもり事件。92歳の母親が前日に亡くなり、医師や理学療法士まで呼び付けて銃で撃った60代男性。 命を救うために必死に手を尽くす人を殺すなんて、理不尽極まりない。孤独や絶望や死にたくなる事は誰に…

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「怖いのは普通のオバサン」

本の話だ。『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』。普通のオバサンはただお喋りでいきなり垣根を越えて近付いて来るだけだ。 筧千佐子(かけいちさこ)の名前を目にしたら、殆どの人がああ、あの年寄を何人も殺した女性だと思い出すだろう。 本書は事件の詳細と彼女に直接面会して聞き出した話だ。その時の服装や雰囲気や表情が細かく描写され、それがこの一冊を引っ張って行く。 あの事件で印象的だったのは結婚した…

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「再度『余命一年、男をかう』」

本を置いて玄関を出ると自然に走った。歩き出してからもかなりの早足だった。 前を行くランドセルの4人がどうも怪しい。一人の男の子を二人の男の子がつかまえていて、女の子が言う。「お兄ちゃん、先生に言ってやめさせて!」 一人は傘を持っているから、もしそれで叩いたら黙っちゃいないよ!と私はガン見する。 傘の男の子は今来た道を戻って行ったが、もう一人が男の子を捕まえ、鉄のフェンスに押し付けている。私…

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『余命一年、男をかう』

誰かが書いたツクリモノの世界で、これ程までに劇的に精神が変化した事が今までにあっただろうか。 知らない作家だ。しかも私より遥かに若い。およそ私が今まで文学的だと思っていた世界とは無縁で、その辺にゴロゴロ転がっているような、何の飾りも工夫もない言葉から成る世界にノックアウトだ。 胸の辺りがザワザワと得体のしれない不安の塊に覆い尽くされそうになる夜、枕辺に置いた本に手を延ばす。 『余命一年、男…

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「泣きたくなる大人の恋『平場の月』」

泣きたい。思いっ切り号泣したい。 本から遠ざかっている時ですら、須藤と青砥が気になった。現実には確かに仕事したり家事をしたり庭の片付けをしているのに、本の世界がよりリアルに身近にあった。 50歳になり偶々再会した中学の同級生、須藤と青砥。場所は病院の売店。二人はそれぞれ結婚歴のある今はシングル同士。共に一人暮らし。男性の青砥の視点で描かれる。 二人の会話がいい。若さに任せて猪突猛進する年…