「時代小説の蔵」の日記一覧

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坂井希久子 の「つばき餡 花暦 居酒屋ぜんや」

★3.3 新シリーズ5作目。今回の大きな事件は、只次郎の姪・お栄が15歳で大奥をお暇になったこと。将軍の伽を断ったことで、病として暇を出されたことにされたのである。仲御徒町の実家の父親(只次郎の兄)・林重正はすぐにも嫁に出そうとする。逃げ出したお栄はぜんやに転がり込んで、隣の春告堂の2階でお花と寝泊まりするようになった。只次郎に似た町人気質のお栄の活躍も期待できる。 升川屋の離れに引き取…

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高橋克彦 の 「炎立つ 四 冥き稲妻」

治暦3年(1067年)、結有は清丸を伴い清原武貞(武則の嫡子)の妻となっており、家貞(後の家衡)も生まれ衣川に住んでいる。前九年の後、源頼義は陸奥守を解任され伊予守となって島流し(伊予⇒筑紫宗像)の宗任らの監視役ともなっている。(あべ姓は福岡県、大分県に多いがいろんな伝承もありそう)。 16年後の英保3年(1083年)、62歳の清原貞衡(武貞)は胆沢の館で突然発熱し没した(本書では…

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高橋克彦 の 「炎立つ 参 空への炎」

★3.5 黄海の戦いの後から前九年の戦さまでを描く(後冷泉天皇の時代、後朱雀天皇の第一皇子。母は藤原道長の女の藤原嬉子、紫式部の娘大弐三位が乳母)。 頼義敗戦は兵と兵糧の不足と出羽守の源兼長の非協力にあると内裏に報告、抗議した。内裏は頼義の鎮守府将軍と陸奥守の留任を認め、出羽守に縁者の源斎頼を送った。だが援軍派遣はしなかった。多賀城や伊治城の兵2千程度では何もできず康平5年(1062年)を…

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高橋克彦 の 「炎立つ 弐 燃える北天」

★3.5  2巻目、源頼義の陸奥守赴任から黄海の戦いまでを描く。鬼切部の合戦の年、永承6年(1051年)、経清は登任の代理として多賀城の守りについたが、京からは登任と平繁成の出家が知らされ、乙那からは、源頼義かが陸奥守に就任したとの報せ。 翌年の春、頼義は3000の兵を率いて赴任した。30年前には頼義の父・源頼信が同じ陸奥守で赴任している。安倍頼良の策は恭順、貞任は1人厨川の柵に立て籠もっ…

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植松三十里 の 「富山売薬薩摩組」

★3.5 富山の薬売りと薩摩の調所笑左衛門広郷の物語。 江戸時代の外国貿易については、幕府はすべてを長崎奉行所と長崎会所を通さねばならないと定めている。薩摩藩は傘下の琉球が清国から輸入する薬種などは一旦は長崎を通さねばならない。 ・輸入薬種の大部分は大坂の道修町に運ばれ取引が行われる。長崎を通さねば抜け荷扱いとなり、摘発の対象となるが、その利幅の魅力に勝てず数々の問題を起こしてきた。 …

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あさのあつこ の「野火、奔る」

★3.5  シリーズ12作目。9作目の「鬼を待つ」の続編。遠野屋の奉公人であるおちやが1年もして八代屋に強引に連れ戻されそうになった。更には弥勒寺前の武家屋敷の路地で昼間に町人が刺殺されているのが見つかった。そして遠野屋には、差波藩からの紅花を積んだ船が江戸に着かないという連絡が。そしてかの八代屋には、後を継いだ長太郎が仮祝言だけという不自然な噂。今回は、信次郎がこれらの事件を繋げ、謎解きをして…

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高橋克彦 の「炎立つ(ほむらたつ) 壱 北の埋み火」

★3.5 奥州藤原氏の初代・藤原清衡(きよひら)の父・経清の「前九年の役」の前哨戦である「鬼切部の戦い」までを描く。 物語は永承4年(1049年)国府の多賀城から陸奥守である61歳の藤原登任(のりとう)が、亘理(わたり)郡司の息子・藤原経清、伊具(いぐ)郡の郡司・平永衡(ながひら)を伴って、安倍頼良の次男・貞任の婚儀に出かける。安倍頼良(後の頼時)は奥六郡の統治を任されている俘囚の長で数…

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北方謙三 の 破軍の星

★3.5  北畠親房の長男・顕家の5年間の物語。 元弘3年(1333年)、北畠顕家(あきいえ)はわずか16歳で従三位陸奥守を拝命し、6歳の六の宮(後の後村上天皇)を奉じて陸奥の国府、多賀城(宮城県多賀城市)へ向かう。従うのは南部師行、伊達行朝、結城宗広の兵1500。 陸奥北部の津軽糠部(ぬかのべ)地方の豪族は曾我と工藤の両豪族に青森外浜の安藤家季が加わり反乱。顕家は南部師行を派遣し八戸に…

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梶よう子 の「雨露(うろ)」

★3.3 小山勝美(後の浮世絵師・東洲勝月)の彰義隊参戦記。城山三郎の「雄気堂々」や植松三十里の「繭と絆 富岡製糸場ものがたり」などで渋沢成一郎や尾高惇忠、上野戦のことをある程度は知ってはいたが、その詳細を勝美を通して知ることになる。丸毛利恒が幕府との連絡役として登場するが、旗本の三男から旗本・丸毛彦三郎の養子となり彰義隊に参加した男。 川越藩右筆の次男として生まれた小山勝美は兄に誘われ2…

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麻宮 好 の「月のうらがわ」

★3.5 深川の仙台堀沿いの伊勢崎町、その海辺橋に近い所にある裏店が新兵衛店である。物語はここに住む重いものを抱えた5つの家族の1年間。 主人公は13歳のお綾、大工の35歳の父、直次郎と7歳の弟、正太、母の絹は3年前に病で亡くなった。薬代の借金の支払いが今も続いていて、お綾の気苦労も。 路地の出口に差配の新兵衛と出戻りの孫、お美代24歳が住む。離縁となった理由のよからぬ噂も聞こえてく…

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木下昌輝 の「剣、花に殉ず」

★3.3 細川忠利に仕え兵法を指南したとされる雲林院弥四郎(うじい やしろう)の娯楽物語。 関ケ原の九州戦である石垣原(大分県別府市)の戦いで父の雲林院松軒に従い大友義統の軍で戦い、敵方の黒田軍にいた宮本武蔵と遭遇している。江戸へ出た弥四郎は仲間をつのり雲組という名で辻斬り退治をやっている。資金源は東南アジアに武士を送り込もうとする商人の末次屋。この時弥四郎は部屋住みであった若い光(みつ、…

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梶よう子 の 「江戸の空、水面の風 みとや・お瑛仕入帖 4」

★3.3 シリーズ4作目。今回から文庫で出版。 兄の長太郎が亡くなって7年、世話になった森山のご隠居が亡くなって3年となる。お瑛は呉服屋の若旦那・寛平の紹介で成次郎と所帯を持ち、5歳の兄と同じ名の長太郎がいる。 成次郎は兄と同じ仕入れを担当。依然、橋を渡るのが苦手で猪牙舟の腕は落ちていない。前半は家族の話が中心だが、お瑛が新しい商売、品物の仲介を思いつく。後半は、親代わりのお加津が営む柳…

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吉森大祐 の 「大江戸墨亭さくら寄席」

★3.3 可楽の弟子の噺家仙遊亭さん馬に弟子入りし、下働きを務める小太郎は15歳、両国橋東詰の広場で「墨亭さくら寄席」の名で辻説法をやる男が幼馴染の代助だと気が付いた。代助は小太郎の1つ上、本所林町の同じ櫻長屋で育ち、代助には体の弱い14歳の妹お淳がいた。代助は高名な医師に妹を見せるには20両いると、寄席で集めた客から仲間に掏摸をやらせていた。 櫻長屋の空き部屋に転がり込んだ小太郎と代助…

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辻堂 魁 の「雇足軽 八州御用」

雇足軽とあるから主人公は竹本長吉(おさきち)に違いないのだが、その出番は最初と最後に詳述される特殊な文体。途中は関東取締出役(とりしまりしゅつやく)の蕪木鉄之助の三人称表現が主体であり、長吉の心情描写はない。 八州様と蕪木家の小者・六兵衛、雇足軽の竹本長吉と多田次治、道案内の2人の一手6名がセットで行動するが、これは佐藤雅美版とは大きく異なる。道案内は地理に明るい百姓で次の土地で替わり捕物…

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富安陽子 の「博物館の少女 騒がしい幽霊」

★3.5 シリーズ2作目。中学生向け児童書だが口コミで知ったシリーズで面白い。明治16年3月に大阪から出てきたイカルだが、それから半年が経過。仕事場の蔵には「怪異研究所」の看板が掛けられている。 今回は大山巌、捨松邸で起きる怪奇事件。タイトルはドイツ語のポスターガイストの直訳のよう。イカルは捨松から見込まれ、大山家の先妻の娘2人の教育を1週間頼まれた。手習いと九九の暗記である。 大…

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藤井邦夫 の「逃れ者 新・秋山久蔵御用控(十七)」

★3.3 新シリーズ17作目。4編の内1編は大助が絡むのが定着したよう。 「微笑み」では大助が湯島学問所からの帰りに日本橋の高札場で事件が起きた。悲鳴を聞いた大助が見ると羽織を着た男が倒れており、取り巻く人の中から大助にぶつかりそうになって去った粋な形の年増がいた。大助が男に駆け寄ると、脇腹を刺されており、大助は医者を呼んでくれと叫ぶ。 そこへ駆けつけたのが北町の同心、倉本新兵衛と手…

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辻堂 魁 の 「母子草 風の市兵衛 弐」

第弐部12作目。時代は文政9年(1826年)となり、市兵衛と矢藤太に人探しの依頼がきた。日本橋の永代通りの酒問屋、摂津屋の主、里右衛門は59歳、大病を患ったことをきっかけとして、若かりし頃に縁のあった女、3人と心の決着をつけたいと思うようになった。3人を探し出し、それぞれに100両ずつを渡すことと、突然姿を消してしまった理由を聞くことである。42年前に摂津屋に奉公に来たお高、33年前に女掏摸から…

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砂原浩太朗の「霜月記(そうげつき)」

神山藩もの3作目。父の隠居、失踪で町奉行を継がねばならないことになった総次郎。父を探し出すことが優先されるが、起きた事件はその父が関係するのかと思われる。現場にあったのが父の物と思われる藤の模様の根付。逃げた武士に殺されたのは豪商の信濃屋の三番番頭を首になった彦五郎だった。落ち込んでいる総次郎の力となるのが幼馴染の武四郎と妹の奈美。祖父の左太夫も力を貸そうという気になる。 馬廻り組、日…

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宮部みゆき の 「青瓜不動 三島屋変調百物語九之続」

★3.3 第9巻の第38~。 【青瓜不動】 行く当てのない女たちのため土から生まれた不動明王。未婚の女が子を宿した地獄、嫁いでも子のない地獄、子を生むことだけを期待の姑、子を生んでも嫁をかまわない夫、そんな苦難の女が洞泉庵に集まってくる。その畑から生じた不動明王の顔はうり坊の模様。うりんぼ様と呼ばれている。行然坊はおちかの出産に際し、この不動明王像を送り込んだが、運んできた娘、いねに黒白…

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永井紗耶子 の 「木挽町のあだ討ち」

★4.0 この3年ぐらいの間で最高の作品と思える。 「木挽町の仇討」は木挽町芝居小屋の裏手で実際にあった、ある藩士の息子の16歳の菊之助が仇の作兵衛を討った話である。ところが2年後、その話が聞きたいと18歳の参勤交代で出府したという菊之助の友だという武士が現れた。そして森田座の裏方を務める5人の男に次々と聞き取りをおこなっていく。 「芝居茶屋の場」木戸芸者の一八 ・芝居小屋の前で2、…